36. あの日のこと 3

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「ど……どういう、こと」  芙蓉さんは意外なことを言われ、目を見開いた。 「よく考えてみたんですよ。あの後。成人なんてとっくに過ぎた大の男が、あんな理屈を十五歳の少女に押しつけるなんて、おかしいですよね」 「う……」 「誰が、あんなことを吹き込んだんでしょう。疑問に感じないほど、長い時間、執拗に、まるで洗脳するようにでもしなければ、あんな理不尽なことを真顔で言うような人間にはならなかったんじゃないでしょうか」 「な、なによ、なに!? あたしが洗脳したっていうの!?」  芙蓉さんの顔には、汗が浮かんでいる。 「違いますか?」  爽希さんは芙蓉さんの反論を、あっさりと封殺した。 「あなたは長い年月をかけて、自分の息子に、呪いの毒を注ぎこみながら育てた。そして、無関係のまま放っておけばよかった相手に、まるで式神のように彼を送りこんだ」 (ああ、そうか……)  そうだ。  話を聞く限り、もともとはあくまで男女の三角関係の話、しかもひとりは身を引いた。  それで済む話ではあるんだ。  でも、それは呪いになった。  子まで引き継がれた、呪いに。 (家族……。家族、血縁、かあ……)  正直、あたしにはここらへんの感覚はわからない。  それが今までずっと、自分の不幸だと思ってた。 (でももしかしたら、幸運でもあったのかな)  急に価値観が逆転してしまい、あたしは目の前がクラクラする。
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