36. あの日のこと 3

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「そ、そんなの、そんなの、あんたの勝手な屁理屈でしょ! 実際に手を下したのは、あんたよ!」  芙蓉さんは叫んだ。 「たしかにそうです。でも、手を下させるように持っていったのは、まごうことなき、あなたです」  爽希さんがきっぱりと言う。 (考えてみれば、あたしと堀田さんも、そうか……)  芙蓉さんは直接、手は下さない。  代わりに、(から)め手を使うんだ。  知り合いらしい堀田さんを焚きつけて、あたしを潜入ルポさせるようにして。  あたしはたまたまそれに乗り切れなかったけど、もしもふたりの意図通りにしていたら。  今頃はこの家のプライベートを切り売りして、ボロボロにしていたかもしれない。  そう思うと、ぞっとした。  自分で手を下さなずに、人を陥れることを、なんとも思わず実行できる人がいることに。  あたしがそれに加担しかけていたことに。 (殺す人、殺させる人、どっちがより怖いんだろう……)  あたしには答が見つからない。
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