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「ダメよ、兄さん!」
爽希さんは、芙蓉さんを一瞥したあと立ち上がり、ゆっくりと階段を降り始めた。
「それじゃ、あたしは……」
なにかを言いかけ、車椅子を走らせる雲雀さん。
でも、その前に立った爽希さんは、ゆっくりと首を振った。
「いいんだ、雲雀。今まで何事もなかったような振りを続けてきたけど、もう、限界だと思う」
「でも!」
「雲雀。相談がある」
「な……、なに」
「会社を、引き継いでくれないか。僕が罪を償っているあいだ」
「えっ」
「独学で、経営のことを勉強してるのは知ってる。必要なアドバイスがあれば、獄中からでもできる限り答える。だから、頼まれてくれないか」
「で、でも……。そんな」
雲雀さんが口ごもっているうちに、芙蓉さんも降りてきていた。
すると、爽希さんは振り返り、こう言った。
「これでいいですか。もう我々にちょっかいをかけないと、誓約書を書いてくれますか。こちらは代わりに、相続放棄の書類を書きましょう」
さらには、皮肉な笑みを浮かべる。
「ああ、ちなみにこれは、あなたのためじゃありません。正嗣くんのためです。よくお考えになってください」
正嗣くんのため、という言葉が、芙蓉さんにはどうやら効くようだ。爽希さんはその名前をかなり強調した。
「この取引が成立するなら、彼の父親が本当は誰なのかも、追及しないでおきます」
(うわ、マジか)
これは爆弾発言だろう。
実際、芙蓉さんは絶句して立ちすくんでいた。
つまり、まあ、図星なんだろう。
(まさか……、堀田さんじゃないだろうなあ?)
あたしは思ったが、もう、そこを追求する気は起きなかった。
なんていうのかもう、こういう他人を陥れて自分の利益にしたがるような人たちに、関わりあいたくない。たとえ根性なしと言われようとも。
(あたしが関りたいのは……)
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