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結局、正嗣くんについてのことが、芙蓉さんを説き伏せる決定打になったようだった。
なんのことはない、愛人だのなんだの言って難癖つけてた張本人が、不倫の子を産んでたというわけだ。
そこを追及されたら、今の立場すら怪しくなりかねないことは、自身が一番よくわかっていたんだろう。
(しかしまあ、そんな環境で、よく正嗣くんがあんなにまともに育ったものだ)
かえって感心してしまった。
たしか大基さんばっかりにかまけて、あまり愛情を注いでくれなかったと言ってたから、それがよかったのかもしれない。
(すっごい皮肉な話だけど)
そして、あたしはと言えば。
大胆にも、申し出てしまった。
「あたしも雲雀さんに協力します。させてください。小さな町工場だったとはいえ、経理関係の仕事の経験もあるので、お手伝いできることもあると思います」
「しかし……」
爽希さんは迷う表情になった。
なんでなのかは、あたしだってわかる。
「堀田さんたちとは、これっきり、縁を切ります。今さら信用してくれ、と言うのも図々しいかもしれませんが」
「いや、そっちじゃなくて……。あ、ああ、でも、そっちもですけど」
爽希さんが言いよどむ。ちょっと、らしくない。
一見冷静に見えるけど、実はそれくらい、混乱しているみたいだ。
「いいんですか。犯罪者の出る家に関わるなんて」
(そんなこと、どうだっていい)
さすがに口には出せなかったが、それが、実はあたしの本音だった。
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