38. 咎者たちの家

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 あの日からちょうど一か月後、爽希さんは警察に出頭した。  会社のことを引き継いだり、あれこれの手続きを済ませてからにしたからだ。  雲雀さんも、あたしも、必死で色々なことを覚えなくちゃならなかった。  でも家にさえ帰れば、おいしい料理と温かいお風呂、清潔で整えられたベッド、そういった快適な生活を、志麻さんがいつでも準備していてくれて、心に潤いを与えてくれた。  家庭、という言葉を、これほど身に沁みるように感じたことはない。  心身ともにクタクタになっても、あたしは幸せだった。  帰る場所がある。  笑顔で迎えてくれる人がいる。  自分が抱えていた罪を知ったうえで、受け入れてくれる人がいる。  こんな生活を送ることのできる日が来るなんて、今までの人生で、一度も期待できたことなんてなかった。  会社はそもそも取引先が安定しているので堅調のままだったし、雲雀さんは聡明で、あっと言う間に幹部たちの信頼を得ることもできた。  爽希さんも、過剰防衛という判断になって、三年六か月というあまり長くはない刑期になった。  面会にもマメに行き、仕事上の色々なアドバイスももらえる。  芙蓉さんも、さすがにもう手出しはしてこなくなったようだった。  つまりはまあ、順調、と言ってもいい生活に落ち着いていた。  それから、あたしに関していえば、書くことも続けてる。  堀田さんとは縁を切ったけど、そのあと鏑木さんの紹介で、季刊の小さな地域情報誌の取材コラムを書かせてもらうことになった。  掲載料なんて雀の涙だし、内容は生活に根ざしたお店やイベントの紹介といったところだけど、今のあたしには、そういうものに関わってる人たちの話を聞くことがとても楽しい。  こういう記事を書いていると、母が楽しそうに育児日記を綴っていたのが、なんだかわかるような気がする。  それに結局、今まで評判がよかった記事も、そういう生活に根ざしたものだったから、結局あたしにはそういうのが向いていたんだろう。  スケジュール的にもなんとかやりくりできる範囲なのがありがたかった。
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