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「雲雀さん……」
あたしは、言葉を続けられなかった。
だって……。
「そうよ。あの男を落としたのは、あたし。そのからくりのこと、兄さんが帰国して同居するより前に、父に教えられてたの。でも兄さんは、あたしを庇って、刑務所に行った」
あたしはゆっくりと、螺旋階段を降りていく。
そのあいだに、雲雀さんの頬には涙が流れていた。
「兄さんは、バカよ。あたしが出頭する、って言ったのに。おまえに刑務所生活は無理だよ、なんて言って……」
(そこまで……)
爽希さんの深い愛情に、あたしは自分の身体が、震え始めているのに気づいた。
(家族の愛情って、そこまで深いものなのか……。自己犠牲すら、厭わないほどに)
家族を知らないあたしにとって、これはあまりにも衝撃的だった。
衝撃的すぎて、自分のなかに膨らんでくる感情が、なんなのかわからない。
わからないまま、震える腕で、静かに涙を流す雲雀さんを抱きしめた。
罪を赦しあう、罰すら庇いあう、この家に暮らす人間のひとりであることに、誇りすら感じながら。
〈了〉
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