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『じゃあ棗、いっちょ潜入ルポでもやってみないか』
スマホの向こうでそう言ったのは、堀田さんだ。言葉遣いがちょっと古臭いのが、特徴だ。
あたしの下の名前を呼び捨てにする、数少ない人間でもある。
ギャンブル場の取材中なのか、背後から払い戻し金額のアナウンスが、かすかに聞こえてくる。
「潜入ルポ……ですか」
あたしは面食らいながら、オウム返しした。
そんな言葉、自分に縁があるなんて、思ってもみなかったからだ。
なにしろ、あたしは一介の事務員。『際どい記事でもどんと来い!』が口癖な週刊誌記者の堀田さんとは違う。
『ちょうどやってみて欲しい案件があるんだ。働き手として潜入するから、給料貰えるぞ。それだけじゃなく、住むところと、まかないがつく。悪い話じゃないだろ?』
「どういうことですか」
しかしその条件に、がぜん、話を聞く気になってきた。
今のあたしにとって、目下の住むところと食事が保証されるかどうかは、まさに死活問題だから。
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