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車はやがて、手入れの行き届いた植え込みに囲まれた家の裏手へと回った。
大きなシャッターがまず目につく。たぶんこれがガレージなんだろう。その右脇に、小さなドアがある。
井沢さんはその前にあたしを降ろすと、自分もいったん降りて、インターホンを押す。勝手口のようだ。
返事があり、すぐにエプロンをした中年の女性が姿を現した。
「じゃあ、あとはお任せします。では」
井沢さんは荷物を降ろしたあと、ぺこりと頭を下げると、また車に乗りこんだ。
ガレージに入れるのかと思ったら、向きを変える。
どうやら、このまままた牧園さんのところに戻るみたいだ。
あたしはわざわざ来てくれたお礼を言いたかったんだけど、井沢さんの運転技術があまりに素晴らしすぎるのか、車はあっという間に来た道を引き返して、すぐに見えなくなってしまった。
「いらっしゃい。あなたが沖津さんね」
中年の女性が、背を向けていたあたしに声をかけてくる。
落ち着いてはいるが、元気さが滲み出てくるような声音だ。
「はい」
あたしは返事をしながら身体の向きを変え、しっかりと向き合った。
「私は土谷志麻。ここの家政婦やってます」
にこにこしながら名乗ってくれる。
「はじめまして。沖津棗です。よろしくお願いします」
あたしは丁寧に頭を下げた。
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