16人が本棚に入れています
本棚に追加
土谷さんはうんうんと頷き、外に出るドアを開ける。貸してくれたサンダルを履き、続いた。
門を出ると、振り返って指さした。
「ほら。こうなってるの」
驚いたことに、玄関ホールのあった部分は、そこだけが、屋根より上に伸びていた。
要するに、塔だ。
「一番上にね、金庫と重要書類が置いてある小部屋があるの。そこには私も一度も入ったことない。鍵も持たされてないし、まあ、用もないしね。そこに行くには、この階段を昇るしかないわけ。まあつまり、爽希さん専用の設備みたいなものだわね」
「えっ……。たったそれだけの、その部屋だけのために、こんな大袈裟な螺旋階段作ったんですか」
「そうらしいわよ。先代の意向らしいけど」
「へえ……」
なんというか、『こだわり』と簡単に言ってしまうには、もうすこし重めの意図を感じる。
が、確証はない。
単に金持ちの道楽というやつなのかもしれない、しょせん。
まあ少なくとも、入ってすぐにこんなものがあれば、客に対して財力やらセンスやらをがっつりアピールできることだろう。
つまりある種の威嚇とか、力の顕示といったものか。
どちらかというと、そういう目的なのかもしれなかった。
となると、牧園さんのオフィスのあったビルのエントランスが立派だったのと、同じようなものだ。
(イメージ戦略の一種ってやつか)
ただ、さっき内側から見たときは気づかなかったけど、こうして外から全体像を眺めると、この塔のような部分だけがちょっと浮いているように思えた。
他はガラスと木を基本とした、開放感や快適さみたいなのを重視してるデザインなのに、この部分だけは、下から上までずっと、コンクリートの壁で覆われているのだ。
明かり取りの窓はあるけど、幅十センチの縦長のが、ところどころに思い出したようについているだけで、全然開放感を出せるレベルじゃない。
色はほぼ白なので威圧感はないけど、なんだか他とは別の人間がデザインしたみたいな、『取ってつけた』感があった。
もしかしたら、それが目立つからこそ、『螺旋邸』なんてあだ名がつくことになったのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!