1. 失業

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 安月給で貯金もろくになかったから、失業保険を貰っても経済的にはきつい。今まで事情を話して待ってもらってた、溜まった家賃を払えばいくらも残らない。  新しい勤め先を探すにも、今どき事務職は派遣や契約社員がメインで、正社員の口はなかなかない。それでもいくつか面接を受けはしたけど、採用まではこぎつけなかった。  そもそも、今まで勤めていた工場だって、育った施設からの紹介があったから決まったようなものだった。  今回はそういうバックアップも期待できない。  もしも強引に頼んだりしたら、これから施設を出て独立しなきゃいけない他の子の、就職先を奪うことになりかねない。  でも、何度も面接で落ちてるうちに、弱気になってきた。それでついつい、堀田さんに愚痴ってしまった。  たまたま、先月採用された記事のことで、電話をくれたのだ。  大手スーパー数社のお惣菜の記事だ。同じメニューの、グラム当たりの値段を比べた記事。けっこう反応がよかったらしく、お褒めの電話をくれた。  書いてる途中で自分でももの悲しくなったけど、世間でもやっぱり身に沁みる話だったみたい。アクセス数がけっこう稼げたんだとか。  あたしは時々、そういう小さな記事を書いて、堀田さんに見てもらう。  面白そうなら、ネット版のニュースに採用してくれる。  まだ署名記事にまではしてもらえないけど、修行の身ではしかたない。原稿料も、お小遣いにもならないような額なんで、生活の助けには残念ながらならない。  それでも、ちゃんとした出版社の名のもとで発表の場を貰えるだけでも、いい経験なんだ。 (いつか、亡き母のようなジャーナリストになれたら)  そんなだいそれた願望を隠し持っている、あたしみたいな人間には。  声をかけてくれた堀田さんには、感謝しかない。  そんなわけで、頼れる上司的な存在なので、ついつい弱音を吐いてしまったら、そんな提案をされたのだ。
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