7. 鳥の名前の少女

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 本邸に戻ると、広い部屋の中、ガラス戸のそばにぽつりとひとり、雲雀さんが外を眺めていた。 (なんだかなあ)  広い部屋はいいことだ。  インテリアもデザインも内装も無駄がなく洒落ていて、色んな人がきっと憧れるような家だろう。雑誌にだって載るかもしれない。  でもなんだか、そこにひとりでいたって、ちょっと空虚なようにも見える。  まあこれは、あたしが施設で育ったからこその感覚なのかもしれないけど。  だって、常に自分以外の子供がいて、泣き叫んだり笑ったり、たまにはケンカなんかもしてたりして、騒がしいのがあたりまえの生活だったもん。  そう思うと、金を使ってまで、妹の傍にいてくれる人間を作ろうとしたお兄さんの気持ちが、ちょっとだけわかるような気がした。  あたしが土谷さんにミルクティーの淹れ方を伝授されているあいだも微動だにせず、これじゃまるで、あっちのほうが訪問者のようだ。  ひと通り準備が済むと、土谷さんに促されてあたしはテーブルのうえにお茶とお菓子をセットした。 「どうぞ」  声をかけると返事はなかったが、車椅子の向きを変えて、雲雀さんはスゥーッとテーブルまで来た。電動らしく、スイッチひとつで自分の思う通りに動けるらしい。誰かに引いてもらったりする必要はなさそうだった。  茶器も片づけなきゃいけないだろうし、かと言って隣に立たれても不快だろうから、あたしは土谷さんのいる簡易キッチンで待機していようと、テーブルを離れようと背を向けた。  すると、突然言われた。 「兄さんに、なにを頼まれたの」
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