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結局その日は、あたしが本邸に行くことはなかった。
爽希さんは外でビジネスディナーだと連絡があっただとかで、雲雀さんは自室で食事、土谷さんが運んでいって終わりということになったからだ。
あたしは土谷さんと、お昼を食べたのと同じ、キッチンのテーブルで、夕食を取ることになった。
どっちにしろ、あたしの契約では就業時間は九時から六時なので、その頃には時間外、本邸にいる必要のない頃ではある。
(なんだか、難しそうな家だなあ)
今日一日の不毛っぷりを考えると、食欲も失せる気がした。
でも、そんなのは一瞬だった。
食卓につき、いざ目の前に並んだものを見たら、がぜん気分があがった。
タラの芽とフキノトウの天ぷら。
鰆の煮つけに、ルッコラとアスパラガスのサラダ。
そしてあさりのみそ汁に、あおさとホタルイカの酢味噌和え。
そして極めつけは生のやつを使った筍ごはんだ。
いわゆる『旬の食材をふんだんに使い、手間暇かけて作った家庭料理』だ。
話に聞いたことはあるけど、実物を見るのは初めてだ。
感激するしかない。
しかも、味付けも盛り付けも絶品で、さすが、プロの家政婦さんだけある。
筍ごはんなんて、おかわりまでしてしまった。
「若い人はいいわね。そんなにおいしそうに食べてくれると、作り甲斐あるわあ」
土谷さんは笑う。
「雲雀ちゃんも、それくらい食べてくれればいいんだけど……」
(うっ……)
あたしは思わず、箸を止めた。
(雇い主より食欲旺盛っての、あんまりよくないのかな……)
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