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土谷さんはそれにすぐ気づき、また、笑った。
「いいのよ、いいのよ。遠慮せず食べなさい。食費は私たちのぶんも込みでたっぷり貰ってるし、結局ご兄妹が食べるために買ったものの残りなんだし。ただ、そのうち一緒に食事するようなことになれば、雲雀ちゃんにもいい影響になるかも、ってちょっと思っただけよ」
「一緒に食事、ですか」
「そうそう。本当はそうなのよ。前の人も、最初のうちは爽希さんや雲雀ちゃんと一緒に食事取ってたの。揉めちゃったせいで、最後のほうはこっちで私と一緒に食べてたけど」
「土谷さんは向こうで一緒に食べないんですか」
ふとした疑問をぶつけてみる。
「私はまあ、給仕担当だからねえ……。ああ、それと、呼び方は名前のほう、志麻でいいわよ」
そう言われてみると、あれこれ世話しながらだと、土谷……いや、志麻さんこそ落ち着かないだろう。
こっちで食べるほうが、ぜんぜん気楽なのかもしれない。
「あの、じゃあ、私のことも棗って呼んでください」
「あら、ちょっと珍しい名前ね」
「母がつけてくれたんです」
そう、これは母さんが残してくれた、数少ない遺産のひとつだ。あたしはそう思っている。
「たっぷり食べて、たっぷり眠って、明日からに備えなさい」
志麻さんは、急に真顔になった。
たしかに、あの気難しい美少女の相手をするには、英気はたっぷり養っておいたほうがよさそうだった。
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