8. 胡乱な人

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 寝る準備を済ませ、ベッドに寝転がりながら日記アプリに今日の出来事をメモっていると、車の音が聞こえた。  ガレージからだ。  井沢さんが帰ってきたのだろう。  時計を見ると、十時を過ぎている。  こんな時間まで付き合わされて大変だなあ、なんて思っていると、バタンとドアの開く音が続いて聞こえた。  あたしの勘違いじゃなければ、この建物のドアだ。 (たしか井沢さんはガレージの横だかにある別棟に住んでるって言ってなかったけ……?)  とは思ったが、そういえば昼間のお礼を言いそこなったことを思い出した。 (一応、言っておこうかな)  あたしはパジャマの上から、膝まであるカーディガンを羽織り、部屋を出た。  廊下は暗かったけど、階段を登ろうとしている人影が見えたので、声をかけた。 「井沢さん」  ただ、意表をついたかっこうになってしまったらしい。  驚いたのか、背中がビクっと揺れた。 「あ、ごめんなさい、びっくりさせて……」  謝っている途中で言葉が止まる。  振り返ったのが、爽希さんだったからだ。  今度はあたしがびっくりしてしまった。
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