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「はい。でもあんまり、気に入ってもらえなかったみたいです」
あたしはつい、正直に言ってしまった。
だって、初日から自分を大きく偽ったってしょうがない。
下手に取り繕っても、すぐに破綻するだろう。
「そうですか」
ただ、爽希さんは、特に意外そうでもなかった。
「彼女は、誰のことも気に入らないんです。なんとか騙し騙しやっていってください」
(……んん?)
雇われの身でなんだけど、どうも他人行儀な言い方に聞こえる。
そういえば雲雀さんは雲雀さんで、スパイがどうとか言ってなかったっけ。
(兄妹仲、悪いのかな)
(でも本当に悪いのなら、わざわざ人は雇わないか)
謎だ。
「でも、雲雀さんってお名前、素敵ですね」
あたしは話題を変えることにした。
「名前……? 素敵……?」
あれ、なんだか怪訝そう。
考えたこともない、といった雰囲気だ。
「そ、そうですか」
「鳥の雲雀は、朝の象徴とか、晴れた日……『日晴り』が語源だなんて言われてるらしいです。なんだか未来志向を感じるお名前ですよね」
思わず取るに足りない豆知識をべらべら喋ってしまったが、爽希さんはそれをどうやら面白がってくれたようだった。
「そんな謂れのある鳥だとは、知りませんでした」
感心した表情でこちらをじっと見つめる。
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