9. ぎこちない朝食

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 部屋に戻ると、上のキッチンからは、もう物音がし始めていた。  買ってきたものを部屋に置き、あたしは階段をあがって、キッチンに顔を出した。 「おはようございます」  ガス台に向かってる背中に声をかける。  ホームベーカリーの機械からは、パンの焼き上がる、いい匂いが漂ってきている。 「あら、おはよう。早いのね」 「志麻さんこそ」 「まあ、それが仕事だから」  笑いながら、フライパンのオムレツをひっくり返した。  まあ実際、あたしより志麻さんのほうが、仕事の拘束時間は断然長い契約になってるのだろう。  ただ、こういう、住まいと職場が同じだと、どこまではっきり勤務時間を区切るのか難しそうではある。  そういう意味では、別棟にしてくれているのは、区切りをある程度つけられるので、いい待遇といえるのかもしれなかった。 「手伝います」 「いいのよ。職務外でしょ」 「でもやりたいんです」 「あら、そう。助かるわ。じゃあ、そこに置いてあるお皿、広げてくれる」 「はい」 (もしも) (もしもお母さんが、あたしがこの歳になるまで生きていてくれたら) (こんなふうに、お手伝いをする日が来たのかな)  そんな、考えてもしかたのないことが急に頭に浮かんできて、あたしはあわてて思考を止めた。
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