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運んでいくためのワゴンの一番上にある、大きなトレー。
棚から出してある食器のセットを、そこに並べる。
縁が花柄の白い陶器のセットで、上から見るとまるでたくさんの花輪が並んでいるみたいで、それだけでも華やかだった。
志麻さんはそれぞれの皿に手早くオムレツとサラダを盛りつけたが、もうひとりぶん、作業台の上にあるシンプルなデザインの皿にも同じものを載せた。
「これは井沢さんのぶん。あっちで配膳してるあいだに食べに来るから。私たちはご兄妹の食事が終わってから。お腹、平気?」
「大丈夫です」
それぞれ違うタイミングで取る食事の世話なんて、すごい。さすがプロの家政婦さん。
できたてのパンに、向こうで切るらしくパンナイフを添え、中段にはバターとジャム、調味料。
下段に飲み物類のピッチャーやポットを載せると、いよいよ出発だ。
「あの、私もついていっていいですか」
訊いてみると、志麻さんは驚いたようだった。
「お手伝いしたいんです」
「いいのよ、そんなこと」
「でもあの……」
あたしは一所懸命に口実を考えた。
「いったん、この家の一日のスケジュールの、全体を知っておきたいんです。なにかあったときに、対処もしやすくなりますし。どうか、今日だけ」
まあこれは、まるっきり口から出まかせというわけでもない。工場勤めのときに身につけた知恵でもある。
「そう? じゃあ……。沖津さんて、仕事熱心なのねえ」
志麻さんは呆れと感嘆が入り混じったようなことを言ったけど、あたしの申し出を受け入れてくれた。
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