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本邸のテーブルには、もうすでに兄妹が揃っていた。
対面式で座り、特に会話をするでもなく、爽希さんはタブレットを、雲雀さんはスマホをそれぞれにいじっている。
なんというか、団欒、という言葉には、程遠い雰囲気だ。
志麻さんは手際よく、ワゴンから食事を運び二人の前にオムレツの皿、切ったトースト、オレンジジュース、ベリー類を載せはちみつをかけたヨーグルトを置いた。
あたしもそれを手伝っていると、雲雀さんが不思議そうに訊いてきた
。
「どうしてあなたが手伝ってるの」
「ええと、一日の流れをだいたい把握しておきたくて、あたしが無理矢理頼んだんです。志麻さんは被害者ですので、叱ったりしないでください」
「被害者」
あたしの言い方がおかしかったのか、雲雀さんは目を見開いたあと、プッと吹き出した。
爽希さんが、弾かれたように顔を上げる。
驚いたみたいだ。
「あ、朝から騒いですみません」
あたしはそう詫びて、急いで志麻さんが待機している、部屋の隅の簡易キッチンに退避した。
そこではすでに、食後のコーヒーを作り始めているところだった。いい香りがあたりに立ちこめている。
「ねえ、勤務時間が始まったら」
ふいに、雲雀さんが声をかけてきた。
「沖津さん、散歩につきあってくれない」
「はい」
あたしは振り向き、なにげなく答えた。
でも、横にいる志麻さんが目を見開いたのと、また爽希さんが顔を上げたのを見て、なにやらこれはかなり珍しいことなんだと気づいた。
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