10. 散歩という口実

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 その後、一応最後の片づけまで一緒にいて、志麻さんを手伝った。  ちなみに、雲雀さんは食事を半分以上残した。  志麻さんが手間暇かけた、おいしい食べ物を無下(むげ)にするなんて、本当にもったいない。 (食欲がないっていうのは損だなあ)  なんて、食い意地の張ってるあたしは、勝手なことを考えた。  となると、散歩はいいかもしれない。 (すこしは気分転換になって、お昼は朝よりは進むようになるかもしれないし)  エレベーターを使ってガレージまで降りると、井沢さんがちょうど車の準備をしていて、気持ちのいい挨拶をしてくれた。  爽希さんは今日は少しゆっくりめの出勤らしい。  いつ見ても好青年だ。  なのに、雲雀さんは不愛想に肩をわずかに竦めただけで、黙ったままだった。 (なんだかなあ)  せっかくの美少女なのに、あまりに愛想がなさすぎて残念な気持ちになる。  でもすぐに思い直した。  あまりに美形だと、べつに愛想なんて必要なく生きていけるんだろう。  あたしみたいな、凡百の人間には想像つかないだけで。  たぶん、爽希さんの表情筋が退化してるっぽいのも、同じ理由に違いない。  これ以上このことについて考えていると卑屈な気持ちになりそうなので、あたしはさっさと気持ちを切り替え、車椅子を押して颯爽と外に出た。  もうずいぶん日が出てきていたから、さっきよりはかなり暖かい。  なかなかの散歩日和だ。
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