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一週間後、なけなしの一張羅のスーツを着て、あたしは都心の一等地にある高層オフィスビルの前にいた。
面接を受けるためだ。
大理石を模した白いコンクリートに大きなガラス張り、よくテレビなんかでも、ランドマークとして画面に登場することも多いビルだ。
まだ寒さの残る春先の、夕暮れ間際の曇り空の下。
それぞれの窓から洩れるオフィスの光で浮き上がるその建物は、まるでいつかのキャンプで友だちが持ってきていた、LED式ランタンの巨大版のよう。
明るく清潔な光だが、温かみは感じない。
今まで、下町の古びた街の一角にある工場と、せいぜい近所のスーパーマーケット、コンビニくらいにしか用のなかったあたしには、もちろん縁のなかったタイプの建物だ。
そんな有名ビルを前に気後れしそうになる自分を奮い立たせようと、あたしは履歴書の入ったバッグの持ち手をぐっと握りしめ、意を決して足を踏み入れた。
総合受付でアポを確認して仮入館証を発行してもらうと、警備員がひとり、ブースから出てきた。ご案内します、と言う。
(わざわざ、ご丁寧に?)
あたしはなんだか恐縮してしまう。
大きなエントランスホールを抜け、建物の一番奥まで連れて行かれた。
途中、エレベーターホールがあった。八基ぶんのドアが並び、定時で仕事を終えた人たちが、続々と降りてきている。
みんな、最新のファッションに身を包んで、颯爽とした姿だ。
(それに対してあたしは……)
そう思うと、なんだか華やかなテレビドラマの撮影現場に間違えて入ってしまった、場違いな見学者のような気分になってしまった。
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