10. 散歩という口実

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 車椅子はたぶん、あたしが押してなくても動かせるんだと思う。  でも、雲雀さんはなにも言わないので、あたしはそのまま押し続けた。  路面はよく舗装されているし、道幅も広い。  車も通らないし、住宅街の道だから、歩道と車道も分かれてなくて、道路幅いっぱいに使える。  となると、車輪のついたもので進むのが、なんだかちょっと小気味いいのだ。  自転車に初めて乗った、子供の頃を思い出す。  そんな些細なことでご機嫌なあたしに対して、雲雀さんといえば、終始無言のままだった。  十字路やT字路になると行先を指さすが、反応するのはそれだけ。  まあ、あたしの気分なんて、知る由もないのだろう。  やがて、最後の角を曲がると、急に、視界が塞がった。  背の高い堤防が、眼前に巨大な壁となって、広がっていたからだ。  雲雀さんが指さすまま、それに沿ってしばらく行くと、スロープになっている場所があった。  さすがにきつくなっていると、雲雀さんが電動のスイッチを入れた。  それでゆっくりと昇りきると、一気に視界が開ける。  眼下には、大きな河川敷が広がっていた。
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