10. 散歩という口実

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 サッカー場や野球場、大きな花壇なんかも作られていたけど、なにせ平日昼間で利用者はひとんどいない。なんとなく見捨てられた場所みたいで、ちょっと寂しい。  土手に生える草も、芽吹きにはまだちょっと早いみたいで、茶色く枯れた色のものがほとんど。  もう少し経てばきっときれいな景色になるんだろうけど、今のところは、自然の恵みを楽しむという眺めにはほど遠かった。 「寒くないですか」  あたしはまず、それを確認した。  見渡す限り、これといった施設もないので、万が一トイレにでも行きたくなったら大変だ。 「大丈夫」  雲雀さんはぶっきらぼうに言うと、ふいに対岸を指さした。  「あのあたり、菜の花の群生地になってて」  そう言われて目をこらすと、たしかに、すでにもうちらほらと黄色い花が咲き始めている。 「すごく小さいころ、あたしはそこに行きたくて、ここを泳いで渡るんだって言って、飛び込みかけたの。懐かしいなあ」  へえ。  けっこう、やんちゃだったんだな。 (……ん? あれ?)  あたしの疑問の声がまるで聞こえたように、雲雀さんが悪戯っぽい視線で見上げてくる。 「小さい頃から、車椅子だったわけじゃないの」 「そうなんですか」 「笑っちゃったなあ。兄さんが一緒にいて、あわてて羽交い絞めにして止めてくれたんだけど、そのあと、大泣きしちゃって」 「雲雀さんが?」 「ううん。兄さんが」 (おっと、意外)  あのムッツリした人が……かぁ。
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