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サッカー場や野球場、大きな花壇なんかも作られていたけど、なにせ平日昼間で利用者はひとんどいない。なんとなく見捨てられた場所みたいで、ちょっと寂しい。
土手に生える草も、芽吹きにはまだちょっと早いみたいで、茶色く枯れた色のものがほとんど。
もう少し経てばきっときれいな景色になるんだろうけど、今のところは、自然の恵みを楽しむという眺めにはほど遠かった。
「寒くないですか」
あたしはまず、それを確認した。
見渡す限り、これといった施設もないので、万が一トイレにでも行きたくなったら大変だ。
「大丈夫」
雲雀さんはぶっきらぼうに言うと、ふいに対岸を指さした。
「あのあたり、菜の花の群生地になってて」
そう言われて目をこらすと、たしかに、すでにもうちらほらと黄色い花が咲き始めている。
「すごく小さいころ、あたしはそこに行きたくて、ここを泳いで渡るんだって言って、飛び込みかけたの。懐かしいなあ」
へえ。
けっこう、やんちゃだったんだな。
(……ん? あれ?)
あたしの疑問の声がまるで聞こえたように、雲雀さんが悪戯っぽい視線で見上げてくる。
「小さい頃から、車椅子だったわけじゃないの」
「そうなんですか」
「笑っちゃったなあ。兄さんが一緒にいて、あわてて羽交い絞めにして止めてくれたんだけど、そのあと、大泣きしちゃって」
「雲雀さんが?」
「ううん。兄さんが」
(おっと、意外)
あのムッツリした人が……かぁ。
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