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「兄さんはその頃アメリカに長期留学してたんだけど、その時はなにかの手続きが必要だとかで、珍しく帰ってきてたのよね。あんまり小さい女の子の相手なんて慣れてないから、四苦八苦してたのがおかしかった」
(ああ、そうなんだ)
(歳もかなり離れてるうえに、小さい頃はあんまり一緒にいなかったのかあ)
だから、血のつながった兄妹でも、どこか他人行儀な態度になっちゃうんだろうか。
「お花が好きなんですね」
「どうかなあ。子供のころの話だし。あなたは?」
「私ですか? お花、うーん……」
正直、あまり詳しくはない。
(あ、でも)
思い出したことがあった。
「施設の裏手に崖があって、よくそこをみんなでよじ登ったりしてたんですけど……。そこにある時、一輪だけ藤の花が咲いてて。みんな見とれて、挙げ句、誰も採っちゃいけない、って協定を結びましたね。普段は暴れん坊な連中だったんで、妙に微笑ましかったの覚えてます」
懐かしいなあ。
おもちゃを買う予算なんてほとんどまともになかったから、あたしたちはいつも外で遊んでた。
あの連中も十八歳を迎えると次々に施設を出ていって、今でも連絡先がわかってる相手なんて、数える程度しかいない。
「施設?」
雲雀さんは怪訝そうだ。
「あれ? ご存じじゃなかったですか? 私、施設で育ったんです。天涯孤独の身なんで」
「そうなんだ……」
「だから、羨ましいですよ。あんな立派なお兄さんがいるなんて」
「ふん」
雲雀さんは鼻先で笑う。
「どうしたんですか」
「その立派な兄さんはね、あたしの扱いに困ってるの」
あれ?
なんだか色々と、溜まってるみたい?
(ああ、そうか)
なんだか色々ぶちまけたいことがあって、わざわざ散歩を口実に家から出ることにしたんだ。
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