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雲雀さんは車椅子を、ベンチの隣まで移動した。
あたしにも、座れ、ということなんだろう。長い話をするつもりなのかもしれない。
あたしは素直に腰をおろした。
というか、雲雀さん、いい子だな。こんな気遣いが、さりげなくできるなんて。
「知ってる? あなたみたいな人が、これまで何人来たか」
「私みたいな人、ですか……?」
どういう意味だろう?
「あたしの世話係……、って名目の、監視役。色々な資格を持ってる人なんかもいた」
ああ、前任者か。でもこの口ぶりだと、けっこうな人数がいそうだ。
「でもさ、笑っちゃうの。みんな、あたしなんかどうでもよかったのよ。そりゃそうよね、こんな小娘の世話係なんかしたって、キャリアにもなんにもならないもの。ラッキーボーナス狙うくらいしか、得になんないでしょ」
「ラッキーボーナス?」
「兄さんよ」
「爽希さん?」
あたしは、雲雀さんがなにを言っているのか、本当にわからなかった。
その、きょとんとした顔が面白かったのか、雲雀さんは急に爆発したように笑い出した。
「わからない? 言うでしょ、玉の輿とかいうやつ」
(ああ、そういうことか)
言われてみれば、まあ、爽希さんはなかなかのステイタス持ちだ。
あの若さで製薬関係なんていう手堅い業種の社長やって、あんな立派な邸宅を維持して、妹だけでなく雇い人三人も養えるくらいなんだし。
加えて、見た目もかなりいい。面食いにはたまんないだろう。
そしてとどめは、独身。
そりゃあ、若い女性が近づけたら、『あわよくば』なんて気持ちを持ってもおかしくはないだろう。
まあ、表情筋は死んでるけど。
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