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あたしは嫌な気分になりながらも花束を持って、勝手口に回った。
雲雀さんの姿はもうなかった。ガレージから部屋に戻ったのだろう。
あたしは手にしたものをどこに捨てるか迷った。とにかくかさばるので、部屋に備えつけてあるゴミ箱には、どう考えても入らない。
それに正直、かなり金のかかっていそうなそれを、雲雀さんがいくらああ言っていたからといって、素直に処分してしまっていいものなのか、判断がつけられなかった。
(こういう時には、『先輩』に相談するに限る)
あたしはすぐに、キッチンに向かった。どっちにしろ、家のなかの一番大きなゴミ箱はそこにある。
「あら、お帰りなさい。寒くなかった? 雲雀さんに温かい飲み物でも持っていったほうがいいかしら」
入ってきたあたしにそう声をかけてきた志麻さんは、手にしているものを見て、わずかに眉をひそめた。
「あの、これ……。雲雀さんが、捨てておいて、って……」
あたしはおずおずと花束を差し出す。それを無言で受け取り、そのままストレートにゴミ箱に突っこんだ。
「あの、これって……?」
ためしに、ひと言だけ訊いてはみる。
「なんでもないのよ」
でも、返ってきたのはそんな言葉だけだった。いつもの志麻さんらしくない。あまりにもそっけない。
(なんでもない、ってことはないと思うけどな……)
態度から推測するに、志麻さんは事情がわかっていそうだったけど、それをあたしに教えてくれるつもりはないようだった。
ここで下手に食い下がっても、不審に思われるだけだ。
あたしはお礼だけを言って、そのままキッチンを出た。
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