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その夜は、あたしも本邸で食事を取るように言われた。
爽希さんも夕食に間に合う時間に帰ってきていた。
「珍しい」
そう言う雲雀さんは、あまり嬉しそうでもない。
朝食のときもそうだったけど、兄妹で食卓を囲むのが、そんなに楽しいことではないみたい。
(血のつながった家族と一緒にご飯を食べるなんて、充分羨ましいんだけどなあ)
そんなあたしはと言えば、ただ座って給仕してもらうのがどうにも居心地が悪くて、結局、志麻さんの配膳を手伝うことにした。
「いいのに」
「いえ、やらせてください。どうにも落ち着かなくって」
兄妹には聞こえないようにこそこそと話す。
こういう行動が、嫌味だと思われたら困る。
雇ってるのはあっちだから、配膳をやらないことのほうがあたりまえで、これは単にあたしがやりたいだけなんだ。
そんなわけで、準備が済むと、さすがにあたしもそそくさと自分の席についた。
でも、食べ始めたはいいけど、会話がない。
見かねたあたしは、ちょっとやけくそ気味に、爽希さんに話をふってみることにした。
「あの……、お仕事は、どうでした」
まあ、話題といえばこれくらいしか思いつかなかった。
しかし。
「すみません。守秘義務が多い業種なので、仕事の話はあまり……」
(ああ、見事に空振り)
あたしはそれ以上口を開かないほうがいいような気がして、結局黙って箸を進めることにした。
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