12. 兄妹の食卓

2/4
前へ
/189ページ
次へ
 その夜は、あたしも本邸で食事を取るように言われた。  爽希さんも夕食に間に合う時間に帰ってきていた。 「珍しい」  そう言う雲雀さんは、あまり嬉しそうでもない。  朝食のときもそうだったけど、兄妹で食卓を囲むのが、そんなに楽しいことではないみたい。 (血のつながった家族と一緒にご飯を食べるなんて、充分羨ましいんだけどなあ)  そんなあたしはと言えば、ただ座って給仕してもらうのがどうにも居心地が悪くて、結局、志麻さんの配膳を手伝うことにした。 「いいのに」 「いえ、やらせてください。どうにも落ち着かなくって」  兄妹には聞こえないようにこそこそと話す。  こういう行動が、嫌味だと思われたら困る。  雇ってるのはあっちだから、配膳をやらないことのほうがあたりまえで、これは単にあたしがやりたいだけなんだ。  そんなわけで、準備が済むと、さすがにあたしもそそくさと自分の席についた。  でも、食べ始めたはいいけど、会話がない。  見かねたあたしは、ちょっとやけくそ気味に、爽希さんに話をふってみることにした。 「あの……、お仕事は、どうでした」  まあ、話題といえばこれくらいしか思いつかなかった。  しかし。 「すみません。守秘義務が多い業種なので、仕事の話はあまり……」 (ああ、見事に空振り)  あたしはそれ以上口を開かないほうがいいような気がして、結局黙って箸を進めることにした。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加