12. 兄妹の食卓

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 山菜ごはんにフキの炒り煮、若竹とわかめの煮物、じゃこの入った白和えに、メインは春キャベツと豚肉を層にして蒸したもの。  胃腸に優しそうなメニューで、スーパーのお惣菜やコンビニ弁当の脂っこい料理に慣れた舌には、もったいないくらいだ。  気まずかろうがなんだろうが、軽く感激しながら食べていると、雲雀さんが助け船を出そうと思ってくれたのか、口を開いた。 「今日、河川敷まで散歩に行ってきたの。棗さんと」 「そうなのか。珍しいな」  爽希さんは箸を止めた。  話を積極的に聞きたいというよりは、それが礼儀、といった雰囲気ではあったけど。 「出かけるのもいいわね。今度は、久しぶりに電車にでも乗って、遠出してみようかな」 「電車か……。まあ、それは……」  その後の言葉は続けにくかったのだろう。  ごにょごにょとした音へと変化していき、そのまま消えた。  雲雀さんはそれをスルーして、言葉を続ける。 「覚えてる? 昔、兄さんがアメリカに行くよりずっと前、母さんと一緒に電車に乗って、遊園地に行ったの」 「ああ、そんなこと、あったっけ」 「兄さん、電車の一番前の窓から、運転手さんの操作、じっと見てて……。遊園地の遊具より、そっちのほうが楽しそうだった」 「だって、遊園地ではおまえがジェットコースターは怖いっていうから、ぬいぐるみパレードとか、お姫様のドールハウスとか、そんなのばっかり付き合わされたからだよ」  幼少の恨みを真顔で訴えているのがおかしくて、あたしはつい笑ってしまった。 (それに、文句言いながらも妹に合わせてあげたんだから、なんだかんだ言っても優しい) 「沖津さん?」  不思議そうにあたしを見る。 「ああ、すみません。なんだか、いいなあと思って。ご兄妹の想い出があって」 「そうですかね」  爽希さんの仏頂面が、さらに笑いを誘う。
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