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とうとう、雲雀さんまでつられて笑い出した。
「兄さん、よっぽど嫌だったのね。まだそんなに覚えてるなんて」
「まあ、それもそうだけど」
爽希さんは、ふいと視線を逸らした。
「三人で出かけることができるなんて、珍しかったからな」
(ふうん)
(なんだろう)
(こんなに立派な家に住んでるし、今では爽希さんは何不自由ない境遇にいるように見えるけど、昔は違ったのかな)
そのあとも取りとめのない話をぽつぽつとしながら食事を終えると、雲雀さんはすぐに部屋に戻った。
あたしはといえば、片づけを手伝おうと、待機していた志麻さんのワゴンまで、皿を運ぶ。
そんなふうにばたばたやっていると、ふいに爽希さんが立ちはだかっていた。
(じゃ……邪魔……)
思わず避けて通ろうとすると、口を開く。
「あの」
「はい」
怒っているわけではない……と思うんだけど、なにしろ硬い表情のままなので、いまいち自信がない。
「ありがとうございました」
「え」
(なんで急にお礼を言われてるんだろう)
「雲雀が、僕とあんなに喋るなんて、珍しいんです。楽しい食事でした」
(そ、そうなんだ)
しかしそんなに丁寧にお礼を言われたら、こっちが恐縮してしまう。なんていうのか、狙ってやったことではないし。
そして、それだけ言うと、爽希さんは螺旋階段のほうへと、さっさと行ってしまった。
あんな風に言われたのがちょっと意外で、ついつい照れながら持ってきた皿を志麻さんに手渡す。すると、なんだかとっても柔らかい目で見られた。
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