13. 境界のどちら

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 そういえば、本採用が決まったというメッセージを一応、堀田さんには送った。  返ってきたのは、『ネタは掴めそうか?』。 (ああ、そうだった)  あたしは『潜入ルポ』をしに来てるんだった。  そういう意味では、キャリアを作りにきてる、と言ってもいい。 (でもなんだか、もやもやする)  記事にする、しかもどちらかというとスキャンダル系の、となると、要するに雲雀さんたちを『売る』と言ってもいい行為だ。  なんだか、正直後ろめたい。  おかしなものだと思う。  堀田さんには、もうこの何年もお世話になってたし、なんと言っても亡き母と親しくしていた人だ。  なのに、たった一ヶ月同居しただけの人たちのほうに、なんだか肩入れしたくなってきている。  ほだされる、って、こういうことを言うんだろうか。  あたしは自分が、どちら側の人間なのか、わからなくなった。 (こんなんじゃ、駄目だ)  堀田さんの教えでは、『ジャーナリストは冷徹であれ』なんだ。 (でも……)  あたしはとりあえず、当たり障りのないことを返すことにした。 『まだです。色々わかるには、まだ時間が必要そうです』  それには、『がんばれよ』とシンプルなメッセージが返ってきただけだった。  どうやら、応援はされているらしい。
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