13. 境界のどちら

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 そんなある日、日課の河川敷への散歩に行った、その帰りだった。  表の門の前に、黒塗りの高級外車が停まっていた。そこから降りたらしい誰かが立っている。着物姿の女性だ。  あたしはなんだか嫌な予感がした。門の前に突如現れたということで、あの、白い花束を連想したからだ。  で、どうやらこの勘は当たったらしい。  雲雀さんは車椅子のスピードを上げ、花束のときと同じ、避けるようにさっさとガレージのなかに入っていってしまう。  あたしは迷ったけど、しばらく様子を見てみることにした。  これまでの経験から、この家にお客さんが来ることはまずないと思える。  御用聞きは当然勝手口に回ってくるし、第一、あの出で立ちではそういう相手とは思えない。  なにかの勧誘なら、志麻さんがすぐに追い払ってくれるはずなのに、なんだかそういう気配もない。  というか、どうも、呼び鈴を押した気配がない。  ここでつい、ジャーナリスト志望の癖が出てしまった。  つまり、話を聞きに行ってしまった。 「あの、この家になにかご用ですか」  話しかけたあたしを、相手はじろじろと、まるで睨みつけるように、上から下へと舐めるような目つきで眺めた。
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