13. 境界のどちら

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 薄緑色の地に大きな木蓮の柄の入った、高価そうな着物に似合わず、なんとなく品のない図々しい雰囲気を、その遠慮のない視線から感じる。 「あんた、この家のなに」 「なに、って……。あの、ここで働いてるんです」 「土谷とかいうのがいたじゃない。クビになったの」 (志麻さんを知ってるんだ)  となると、なにかの売り込みとか、勧誘なんかをしにきた相手ではなさそうだ。  でもそれにしても、なんだかいちいち突っかかるような言い方をする。 「なってません。私は雲雀さんの世話係です」  つられて、ついついムキになってしまう。 「世話係ぃ?」 (あ、バカにしてる)  相手の目つきを見て、あたしはそう感じた。 「それで、ご用件はなんですか」  あたしは負けじと、声を張り上げた。  それに相手もひるんだのだろう。 「ふ、ふん。あんたもせいぜい殺されないように気をつけなさいよ」  そんな捨て台詞を吐きながら車に乗りこむと、あっというまに去っていってしまった。 (謎だ……)  あたしは首を捻る。  しかし着物といい、お抱え運転手がいたっぽいことといい、なんだかお金持ちらしいおばさんだった。  そんなひとが、この家をわざわざ訪ねてきたらしいのは、どんな理由なのか見当もつかなかった。 「ああ、棗さん。おっぱらってくれたのね」  そう言いながら志麻さんが表門を開けてくれるまで、あたしはそこに突っ立ったままでいた。
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