16人が本棚に入れています
本棚に追加
薄緑色の地に大きな木蓮の柄の入った、高価そうな着物に似合わず、なんとなく品のない図々しい雰囲気を、その遠慮のない視線から感じる。
「あんた、この家のなに」
「なに、って……。あの、ここで働いてるんです」
「土谷とかいうのがいたじゃない。クビになったの」
(志麻さんを知ってるんだ)
となると、なにかの売り込みとか、勧誘なんかをしにきた相手ではなさそうだ。
でもそれにしても、なんだかいちいち突っかかるような言い方をする。
「なってません。私は雲雀さんの世話係です」
つられて、ついついムキになってしまう。
「世話係ぃ?」
(あ、バカにしてる)
相手の目つきを見て、あたしはそう感じた。
「それで、ご用件はなんですか」
あたしは負けじと、声を張り上げた。
それに相手もひるんだのだろう。
「ふ、ふん。あんたもせいぜい殺されないように気をつけなさいよ」
そんな捨て台詞を吐きながら車に乗りこむと、あっというまに去っていってしまった。
(謎だ……)
あたしは首を捻る。
しかし着物といい、お抱え運転手がいたっぽいことといい、なんだかお金持ちらしいおばさんだった。
そんなひとが、この家をわざわざ訪ねてきたらしいのは、どんな理由なのか見当もつかなかった。
「ああ、棗さん。おっぱらってくれたのね」
そう言いながら志麻さんが表門を開けてくれるまで、あたしはそこに突っ立ったままでいた。
最初のコメントを投稿しよう!