13. 境界のどちら

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「あれ、誰だったんですか」  そのまま表門から入りながら志麻さんに訊いてみたが、首を横にふるばかり。 「爽希さんか、雲雀ちゃんに訊いてくれる。私の口からはちょっと……」  そんな会話をしながらリビングに入ると、そこには、雲雀さんがいた。 「あ、あの……」  あたしはついさっき言われた言葉を思い出し、つい及び腰になる。 (殺される、なんて、リアルに言われる言葉じゃないよな……。そんなこと言う相手のこと、なんて訊けば……)  迷っているうちに、雲雀さんのほうが先に口を開いた。 「芙蓉さんが来たのね」 「ふ……?」 「あの女、芙蓉さんていうの、父さんの本妻さん。名前」 「あ……」 (本妻……)  そうだ。たしか、堀田さんが言ってた。ここの兄妹が隠し子だとかなんだとか……。 (でもなんで、ひと殺し?)  そこの関連がわからない。 「なんか、変なこと言ってなかった?」  雲雀さん、なかなか勘がいい。 (……っていうか、今までも何回かあったからこその経験則?) 「そうですね。ちょっと、その……」  なんだかあたしの口からはあんな言葉、言いにくい。  でもまさか、この家で出た死人って、あたしの前任者じゃ……と思うと、確かめた方がいいような気もする。 「あの人の息子が、この家で死んだの。それでいつも言いがかりをつけてくるのよ。このあいだの花束も、そう」 (あ、あれ、意外とあっさり教えてくれた)  最初に思ったのは、そんなことだった。  でも次の瞬間、とんでもないことを言われたことに気づいた。 (隠し子たちの住む家で、本妻の息子が死んだ……?)  それは、なにかの一線を越えた出来事にしか思えない。
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