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混乱するあたしを見て、雲雀さんはフッと、皮肉な笑みを浮かべた。
そしてそのままなにも言わず、車いすの向きを変えると、自分の部屋へと戻って行ってしまった。
そのあいだ、あたしはろくに身動きも取れなかった。
それくらい、戸惑ってた。
「大丈夫?」
そんなあたしを気遣って、志麻さんが声をかけてくれる。
その声に気が緩み、あたしはつい、訊いてしまった。
「人が、死んだ、って……?」
「あたしも当時はまだ勤めてなかったから、詳しいことは知らないの。でも、螺旋階段から落ちたって。事故ね」
「螺旋階段……」
まあたしかに、家のなかで起こる事故で、階段からの転落の割合が高いって聞いたことはある。けっこう死んだりすることも多い、と。
「だからあんまり、近づかないように、とは言われてるのよね。慣れてる人間じゃないと、ちょっと危ないからって。掃除もご自分でなさるから、って」
そこまで言って、志麻さんはいったん黙った。
それから、ちょっときつめの声音で、ぼそりと言った。
「どっちにしろ、あんまり話題にあげることじゃないし、このくらいにしましょ」
「そう、ですね……」
たしかに、これ以上あまり突っ込んだことを訊いても、不審に思われかねない。
それに、当時のことを知らない志麻さんに、多くの情報があるとも思えなかった。
「ちょっと、雲雀さんに声かけてきます」
あたしは話を切り上げ、二階に上がった。
ノックをしたけど返事の声だけで、夕食までは用事がないという。
それで、あたしは隣の待機部屋ではなく、自分の部屋にいったん戻ることにした。
なんていうのか、あまり人の気配を感じないほうが、雲雀さんが安心できるような気がしたからだ。
平静を装ってはいたけど、芙蓉さんという女性の来訪に、心が刺々しくなっているのは、傍目から見てもよくわかった。
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