13. 境界のどちら

8/8
前へ
/189ページ
次へ
 部屋に戻りスマホを見ると、堀田さんからの着信記録がある。 (珍しい)  実は、ここに来てから、連絡はほとんどしてない。  暮らし始めたころに『がんばります』と報告したら、『期待してるからな』って返ってきた。それくらい。  もともとマメに連絡を取り合っていたような仲じゃなかったけど、ここに来てからはさらに間が開いていた。 『どうだ。いいネタはありそうか?』 「あー……」  あたしは、返事とも言えないような、変な音を喉から出した。  本当は訊かれてすぐ、頭のなかに、昼間のことが浮かんだ。  でもなぜか、そのことを今言いたくなかった。 「特にないです。すみません、修行不足ですね」 『……まあ、いいけどさ。ただ待ってても、大きなネタなんて掴めないぞ』 「そうですね。がんばります」 『ああ。いいの取れたら、記事にしてやるから』 「でも、一般人じゃないですか」 『仮名にでもすりゃいい』 「はあ。まあ、そうですね……」  あたしはそう返すしかなかった。 (なんでこんなやる気がなくなってるのか) (なんだか、自分が情けないな……。なんでもっと、ガツガツやれないんだろう)  電話を切ったあと、そんな風に落ち込んでしまった。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加