14. いなくなった子 1

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 その夜、あたしは爽希さんに話があると言って呼ばれた。  夕食を終えた後のことだった。  最近、爽希さんは早めに帰ってくることが増えたらしい。  だから、三人で夕食を取ることは、かなり日常になっていた。  ただ、食卓での会話はほとんど雲雀さんとあたしのあいだだけで、爽希さんは食べ終わるとさっさと螺旋階段の上の部屋へと行ってしまうのだけど。  だから、わざわざ呼びつけられたりしたのは、初めてのことだった。  螺旋階段を上がるのも、そうだ。  濃い色の木の手すりと、スチールの支柱、白木のステップでできているそれは、なんというか、デザインが洗練されすぎていて、まるで結婚式場にある写真を撮るためのセットのようでもある。  最初はちょっとうっとりしながら進んでいたけど、途中からだんだん疲れてきた。 (だって、あまりにも長い)  心の中で愚痴りながら、爽希さんについていく。手すりがあたしの感覚的だとちょっと低くて頼りがいがなく、それもなんだか昇りにくさに拍車をかけている。  でも爽希さんは慣れているせいか、軽い足取りでどんどん先を行く。 (こっちにも、エレベーターつければいいのに)  金銭的には、充分可能だろう。  なのに、なんだってこんなに効率の悪い造りになっているのか、ぜんぜん理解できなかった。  雲雀さんが車椅子のせいか、他の場所はむしろ徹底したバリアフリー構造になっているっていうのに。  最後のあたりになると、あたしの額にはわずかとは言え汗が浮かんでいた。
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