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ここまでしてようやく着いた部屋は、あっけないくらいに小さいものだった。
「どうぞ」
爽希さんは紳士的な口調でそう招いてくれたけど、なんだか、二人きりになるとちょっとした圧迫感を感じるような狭さだ。
ここは本当に事務的なことなんかをするだけの部屋らしく、古めかしい木製のデスクと、黒い大きな金庫があるだけ。飾りめいたものもなにもないし、なにより生活感がない。
まあ、爽希さんの寝室は別にあるから、ここに生活用品はあまり必要ないのだろう。ちなみに、そっちは雲雀さんの部屋の向かいにある。
部屋の天井の灯りすらなく、デスクの上にランプがあるだけの部屋は薄暗く、まるで洞窟かなにかのよう。
(爽希さん、こんな暗い部屋で、持ち帰った仕事をいつもしてるのか)
(物好きというか、なんというか……。リビングやあっちの部屋は、ガラスが多用されてたりして、めちゃくちゃ明るいのに)
でも、ここでふと思い出す。
そういえば、面接を受けたオフィスもそんな感じじゃなかったっけ。
(単なる好みか。ごちゃごちゃしてるのが好きじゃないのかな。同情して損した)
そんなことを考えていると、この部屋に唯一ある椅子を勧められた。つまりデスクの椅子だ。爽希さんはというと、デスクの端に寄りかかる。
「芙蓉さんに、お会いになったそうですね」
「ああ……」
あの感じ悪いおばさん。思い出してもなんだか胸がモヤモヤする。
「なにか失礼なことを言われなかったですか」
「いえ、私に対しては別に……」
言い方から、まあすくなくとも、爽希さんもあの女性にいい印象を持ってないことはわかった。
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