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その日は、よく晴れていた。
陽射しもだんだん強くなってくる季節なので、雲雀さんもあたしも、河川敷への散歩には、つばの広い帽子をかぶっていくようになっていた。
「もうちょっと暑くなってきたら、すこしお散歩は休みましょうか。お家のリビングでも、充分日光浴はできますし」
おとといから読み始めた本をバッグから出し、渡しながらそう言うと、雲雀さんはちょっと寂しそうな表情になった。
(やっぱり、かなりこの散歩を楽しみにしてるんだ)
基本、あまり出かけたがらない雲雀さんだけど、これだけはずっと続けている。
だから本当はあまり止めたくはないんだけど、さすがに本格的な夏になると、遮るものがほとんどないここに来るのは、肉体的にもよくないだろう。
だから、しかたない。
「まあ、すぐに、っていう話じゃないですけど」
あたしは慌ててフォローを入れる。
それで、雲雀さんもすこし機嫌を取り戻したようだった。
それからしばらくのあいだは、あたしたちは黙ってそれぞれの本を読んでいた。
雲雀さんは薬学の本。お兄さんの仕事のことに興味があるらしい。
そしてあたしは介護資格の参考書だ。現時点で、ついた知識をすぐ実践に役立てるし、どうせそうなら資格を取ってしまうのもひとつの手だな、と思って勉強することにしたのだ。
本当はすぐにでも読みたい、事件ルポルタージュの新刊本も買ってある。でも、雲雀さんの目に入ったら、もしかしてあたしの『潜入ルポ』がバレるかもしれない。なので、読むのは自室に閉じこもっている時だけにしている。
空は広く晴れわたり、鳥の声が木々の枝の合間から聞こえてくる。
さらには川面から、涼しい風が吹いてきた。
快適なピクニック日和。
(お弁当を持ってきてもよかったな)
そんなことを考え、空を見上げていると、ふいに、視界を何かが横切った。
雲雀さんの帽子だ。
風に飛ばされてしまったらしい。
「わあっ」
あたしはあわてて本を放り出すと、それを追いかけて斜面を駆け下りた。
(川に落ちたらどうしよう)
焦った。
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