15. いなくなった子 2

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 すると意外なことに、あたしより早く、その帽子を掴んでくれた人がいた。 「あ……、ありが、とう……」  息を切らしながら礼を言うと、その小さな手(・・・・・・)は、あたしに帽子を差し出した。  そう、小さな手。  相手は、小学生高学年くらいに見える、男の子だった。 「どうぞ」  小さな紳士風の丁寧な態度に、あたしはつい大人に対するような態度になってしまう。 「あ、どうも……、ありがとうございます」  帽子を受け取り、改めて礼を言って去ろうとして、気づいた。  男の子の足元の草の上には、ランドセルが置いてあった。傍には教材かなにかが入っているらしい袋もある。  なにより、男の子がどこかの私立のものらしい制服を着ていた。 (あらら、サボりか……)  決して、いいことじゃないのはわかってる。  でもなんだか、重いカバンを背中に背負い、肩肘にかっちり沿った服を着て、礼儀正しく生きている子供が、息抜きしてみたくなるのはわかる気がする。 「あの、よかったら、お礼に冷たいお茶でも飲む? 水筒に持ってきてるんだけど」  それで、状態には触れず、ただ提案だけをした。  男の子はしばらく迷っているようだった。 「でも、足りなくなっちゃうんじゃ……」 「ああ、大丈夫。大き目の水筒に入れてあるから。……もちろん、別にのどが渇いていないんなら、無理に勧めたいわけじゃないけど」  ひとりになりたい、ってことでここに来てるなら、邪魔する気はなかった。 「いえ、あの、じゃあ……。いただきます」  男の子は意を決したようにそう言うと、自分の持ち物を抱えた。
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