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すると意外なことに、あたしより早く、その帽子を掴んでくれた人がいた。
「あ……、ありが、とう……」
息を切らしながら礼を言うと、その小さな手は、あたしに帽子を差し出した。
そう、小さな手。
相手は、小学生高学年くらいに見える、男の子だった。
「どうぞ」
小さな紳士風の丁寧な態度に、あたしはつい大人に対するような態度になってしまう。
「あ、どうも……、ありがとうございます」
帽子を受け取り、改めて礼を言って去ろうとして、気づいた。
男の子の足元の草の上には、ランドセルが置いてあった。傍には教材かなにかが入っているらしい袋もある。
なにより、男の子がどこかの私立のものらしい制服を着ていた。
(あらら、サボりか……)
決して、いいことじゃないのはわかってる。
でもなんだか、重いカバンを背中に背負い、肩肘にかっちり沿った服を着て、礼儀正しく生きている子供が、息抜きしてみたくなるのはわかる気がする。
「あの、よかったら、お礼に冷たいお茶でも飲む? 水筒に持ってきてるんだけど」
それで、状態には触れず、ただ提案だけをした。
男の子はしばらく迷っているようだった。
「でも、足りなくなっちゃうんじゃ……」
「ああ、大丈夫。大き目の水筒に入れてあるから。……もちろん、別にのどが渇いていないんなら、無理に勧めたいわけじゃないけど」
ひとりになりたい、ってことでここに来てるなら、邪魔する気はなかった。
「いえ、あの、じゃあ……。いただきます」
男の子は意を決したようにそう言うと、自分の持ち物を抱えた。
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