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あたしについて斜面を登り、雲雀さんのいる場所に戻ると、男の子は勧められるまま、遠慮がちにベンチに腰をおろした。
「あんた、なに」
雲雀さんが不機嫌丸出しで訊く。男の子は身体を縮こまらせた。
「マ……、マサシって言います」
「バカね」
雲雀さんはあたしから受け取った帽子をかぶりながら吐き捨てるように言う。
「あんたの名前なんて訊いたわけじゃないのよ。あんたが何やってるのか、って訊いたの」
「あ……ええと……」
「まあまあまあまあ、雲雀さん」
あたしは慌てて間に割って入る。
「帽子を拾ってくれたんですよ。お礼言わなきゃ」
「ふん」
雲雀さんはそっぽを向く。
ただ一応、小さな声で「それはありがとう」とだけ言った。
マサシくんも、学校サボってる、なんて自分からは言いたくないんだろう。
さいわい? 雲雀さんが不機嫌になったおかげで、そこらへんの追及は続かずに済みそうだ。
あたしは水筒からコップに冷えたお茶を注ぎ、マサシくんに渡した。志麻さんの淹れてくれたおいしい緑茶だ。
「ありがとうございます。いただきます」
丁寧にお礼を言うと、ごくごくと、あっというまに飲み干した。
どうやら、のどは渇いていたらしい。
使ったコップをひっくり返し、きちんと水分を振るい落としてから返してくれる。
年齢に似合わない行儀よさに、またまた感心する。
前の職場の経営者一家の息子、章くんの年相応のやんちゃっぷりとは、ずいぶん違う。
(こんな優等生みたいな子が、サボるなんて。学校ってのも色々大変なんだな)
そんなことを思っていると、あたりに正午を告げるサイレンが鳴り響いた。
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