16. いなくなった子 3

4/5
前へ
/189ページ
次へ
「そんなにいたいのなら、おうちにいったん連絡をしましょうか。親御さんからの許可があるなら、こちらも安心してお預かりできるから」  とうとう、志麻さんが助け舟を出す。  でも、マサシくんはそれを聞くと、見るからに顔色が悪くなった。 「あの、わかりました。やっぱり、帰ります。でも、最後にひとつだけ、お願いを聞いてもらってもいいですか」 「なに?」 「あの螺旋階段を見せてもらってもいいですか」  なんだか、おかしなことを言いだした。  でもたしかに、さっきからチラチラと視線を向けてはいた。 (まあ、あそこまでりっぱな螺旋階段なんて、珍しいもんね) 「なに、将来建築家でも目指してるの?」  雲雀さんが皮肉そうに言った。 「雲雀さん……」  大人げない態度だと思ったのだろう。志麻さんが声をかけると、あからさまに舌打ちをした。 「勝手にすれば」  それだけを言い捨て、さっさとエレベーターに乗り込んでしまった。  まあ、要するにふてくされてしまったようだ。 「じゃあ、荷物持って。ちょうど玄関もそっちだから、好きなだけ見てから帰ればいいわね」  志麻さんはエプロンをはずし、マサシくんの手をごく自然に取った。子供の扱いには慣れているらしい。  あたしもなんだか成り行きでついていった。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加