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(えええええ!!??)
あたしは思わずのけぞりそうになった。
「僕しか顔を知らないのをいいことに、この家に入り込んだってわけだ」
爽希さんは低い声で言うと、腕を伸ばし、マサシ……いや、正嗣くんの腕を掴もうとした。
しかし、今やその小さな身体を抱きしめるようにしている志麻さんがとっさにあとざすり、その手は届かなかった。
「僕、僕……」
でも、それまで泣きそうな顔をしながらも黙っていた正嗣くんが口を開いた。
「僕、螺旋階段が見たかっただけなんです。兄さんが落ちたっていう……。で、でも本当は、あなたたちに会ってみたかった。だから、でも、あの……」
それ以上、言葉が見つからなかったのだろう。すぐにまた口を噤んでしまった。頬に、涙が一筋流れる。
それでも、泣き叫んだりしないのはたいしたものだ。
「芙蓉さんの差し金か」
「違います。お母さんは関係ないです。僕が勝手に来たんです。お母さんには言わないで」
必死だ。
(そうだ、さっきからそうだった。お母さんに叱られたくない……っていうか、嫌われたくないのかな)
子供の心理としてはあり得ると思う。
でも、爽希さんは容赦なかった。
「ああ、そういうことか。でも、わかってて来たということは、君は大基くんの仇でも取りにきたつもりか」
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