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突き放すような物言いに、正嗣くんはますます身体を縮こまらせていたけど、それでもしっかりと首を振ってみせた。
「仇なんて……。だって、本当は、全然仲良くなかったんです。兄さんは、その、いつも僕をいじめていたので……。殴られたり、持ち物を勝手に捨てられたり……。母さんは兄さんだけをかわいがっていたから、言っても、助けてくれなかった」
(うわ、本当ならえぐい……)
でもそんなことをされたとしても、なんといっても実の兄、『いなくなってよかった』とは、さすがに続けられなかったのだろう。そのまま黙った。
「じゃあ、あんたもあたしと同じね。あいつの被害者なわけ」
そのとき、突然背後から声がした。
雲雀さんだ。
いつの間にか、降りてきていたらしい。
「雲雀、おまえ……」
爽希さんは意外な援軍に、たじろぎ始める。
「だましたのは、正直怒ってる。でも、いい機会かもよ。この際だから、ちゃんと話聞くのも悪くないんじゃない」
「いいのか」
「いいもなにも、正直、今の状況にはとっくにうんざりしてる。でも芙蓉さんなんてまともな話ができる相手じゃないし。マ……、違った、正嗣と話したほうがよっぽどマシなんじゃない? 試してみようよ。なかなか見どころがありそうな気もするし」
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