第13話 成長と初試練

1/1
82人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

第13話 成長と初試練

「見てみて!今日もギルドの依頼をやってきたよ!」 「おお、よくやったじゃないか。」  最近毎日テリーがギルドの成果を報告してくれるようになった。彼女は闇魔法を駆使して毎日影に隠れながら獲物を倒すとか言うかっこいい風に依頼をこなしているのだ。  幹部の知識と経験と教え方。そして彼女の飲み込みの速さがうまく噛み合って1ヶ月程度で闇魔法、主に影移動と闇魔法をまとった物理攻撃を習得できた。 「流石だな。テリー様は。」  本当にそう。彼女はあれから成長したなと俺も感じている。 「でも、我が幹部たちも良い活躍をしてくれたな。いい感じに教えてくれた。」 「ありがたきお言葉です...!」  それで、俺は彼女にあるテストをする事にした。 「テリー、俺は今からお前の能力を測る。俺と相手をしろ。」 「え...!流石に無理ですよ...」 「大丈夫、殺しはしないし怪我もさせないから。さ、来い!」  俺は軽く身構えた。その瞬間彼女は安心したような表情でこちらに突っ込んできた。 「おお!動きも早くなったなぁ!」  最初の頃から動きの速さが格段に違う。そして今度は影移動をして死角から殴りかかってきた。次は魔法も入れて攻撃するつもりだな? 「だが...まだ俺には勝てない!」  彼女の成長に感心しているとすきを突かれる。俺は瞬時に体に優しい柔らかめの結界を張った。そして彼女は思い通り跳ね返っていったため、俺は落ちた先にも柔らかい結界を張りクッションとした。 「...やっぱりすごいです!私の力はまだまだですね...」 「そんな事はないよ。幹部よりも少し弱いくらいだから、そこら辺のパーティーなら一瞬で勝てるよ。」  彼女の力が分かった所で、俺はある提案をした。 「...その力を見込んでだが、『初試練』を受けてみないか?その内容は『ドラゴンを倒せ』と言うものだ。お前ならドラゴンくらい倒せるだろう。」 「ドラゴンを倒す...なんか格好いい!やりたい...!でも...」 「大丈夫。その時は俺がいつも後ろに着いているから。」 「それなら良いや!」  彼女にとっての初試練、意外と成長が早かったからいきなりドラゴン討伐となる。だけどきっと出来るだろうな。テリーは俺が強いんだと保証しているからな。 ◇  ある森の奥深くの中心にある開けた所に出てくるらしい。ちなみにこの依頼は各ギルドに1枚ずつ渡っているので同じ場所に集まった何十組も居る。  誰かが俺に話しかけてきた。 「あ、噂の勇者様じゃないですか。やっぱり参加されるのですね?」 「いいや、今日は俺の育てた子にちょっとやらせてみるよ。」 「それは良いじゃないですか!やはり勇者の教え子なので光魔法ですか?」  やっぱり勇者と言えば「光」のイメージがあるのか...でも俺が勇者の場合は少し違う。 「ううん、闇魔法だよ。」 「...え?闇魔法ですか!?あの属性最強クラスにいると言われる...!」  そうなんだ...闇属性は属性の中でも強い部類に入るんだ。それは初めて聞くな。まあ彼女は魔王幹部に教えてもらったから強いことは確かだろう。 「...あ!ドラゴンだぁ!」  俺が少し大きな声でそう言うと皆もドラゴンを見つけた。上から現れたのは青いドラゴンだ。ドラゴンのテンプレに青メッキをかけたような感じだ。  その瞬間みんなは一斉に個人での攻撃を始めたりパーティーとしてまとまって動いていたりしていた。でもテリーは違う。そっとタイミングを見計らっていた。  そしてテリーは影に潜っていった。そう、雲がかかるタイミングを見てそれに合わせて潜ることで出来る限り自由に行動出来るようにしていたのだ。 「流石テリーだな...確実に上達している。」  そうして数秒後に影から出てきて誰よりも高い位置から闇魔法がこもった打撃でそのドラゴンの脳天を一瞬にしてまっすぐ突いた。  そしてドラゴンは動くのをやめ、ゆっくりと倒れていった。 「...ドラゴンを討伐したぞぉ!」  その瞬間、戦士や魔法使いたちは歓喜に包まれた。そしてみんなはテリーの所へ行く。 「お嬢ちゃん、強いじゃないか!」 「見えない所から急に飛んでくるなんてびっくりだぜ!」 「流石闇魔法の使い手だ!」 「ありがとうございます...!」  意外にもドラゴン討伐の時間よりもテリーを褒める時間の方がずっと長くなっていた。 ◇  意外にもあっさりと終わったドラゴン討伐の後片付けをしていたら一番最初に話しかけてくれた人がまたこっちへ来た。 「君、外の世界に興味はあるかい?」 「え...?...少しあります。でも、怖いです。」 「ハハハ、そんな事はないよ。外の世界は楽しいぜ。ここではできない経験が出来たり、いろんな世界の事を良く知ることが出来る。しかも君は貴重な闇属性を持ってるんだから、仲間もすぐに集まるぜ。」 「仲間...ですか?」 「もし気があるなら一日待ってあげるよ。もし冒険をしたいなら明日ギルドへ来い。俺達とパーティーを組もうではないか。」 「考えておきます...」 「じゃ、よろしくな。あ、俺『ジョニー』って言うから!」  そしてその男は彼のパーティーに合流して帰ってしまった。  そうか、テリーはもうお誘いが来るほど強くなったのか。嬉しいことだが、少し寂しくもあるような... ◇  俺は色々と複雑な気持ちで魔王城へと帰って行き夕食を食べた後、テリーが話しかけてきた。 「私って冒険に行かなければいけない年なんですか...?」 「ん?むしろ早いほうだし、行く必要は無い。けれどそれは自分で判断することだし、俺達は君の最終判断が『行く』にしても『行かない』にしても君のこれからを応援するよ。だから今夜はよくよく考えて決めてよ。」 「...」  テリーはしばらく考え込んで、寝室へと戻っていった。 「もうテリー様も旅立ちですか...早いような感じはしますけど...しょうがないですよね。」 「でも若いうちからぜひ色々な事を経験したほうが良いと思うな。でも俺は彼女がどっちの意見を出してもそれを尊重する。」  でも俺の意見としてはぜひ行ってほしい。そして外で出来る経験をたくさんしてほしい。もちろん苦しいこともあるだろうけど、楽しいことだって同じくらいあるだろうし... 「旅立ちか...俺もこの際何かを始めてみようかな。」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!