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第4話 お話と冒険の始まり
「...と言うことなんです!だからあなたは強いんです!」
「はあ。」
どうやら俺の貰った能力「特殊攻撃V」には基本的な魔法や飛ぶ武器の扱いやさっき言われた創作魔法の能力がありそうな感じだ。勇者の話も小一時間された。どうやら勇者は主に剣術に特化しているが魔法も弓も強い万能マンらしい。俺の考えていた勇者は剣一本で戦うような格好いい人だったのに...まあ万能でも格好いいかも知れないけど、なにか不自然なような。
「剣術に特化」って言うのは多分「剣術X」のことだろう。どれくらい強いのだろうか...?確かめてみたくなった。
「ちょっと、錆びてて使えないような剣でも良いからあったりする?」
「あ、はい!どうぞ...さっきスライム狩りで使えなくなったサビたての剣です...!」
俺はあの太い木を敵と見立てて、その木に向かって全力で走り抜けながら剣で人参を乱切りするかのように切りかかってみた。
「ふう...」
いつの間にか俺は木の向こう側に居た。そして木はまさに乱切りのようにザクザクと切れた。
「流石です、剣術も冴えてる...!」
まあ「剣術X」とか言う凄そうな名前だからその通りすごいんだろうけど、それでもあんなに木がバラバラに切れるとは思っていなかった。しかも俺が思ったとおりの「乱切り」になったから尚更この能力はすごいな。
そういえば俺らはまだ森の中だ。そろそろギルドに戻って報告しないと心配されそうな時間になってきたと思う。
「とりあえず、ギルドに戻って報告しよっか。」
◇
ここはギルドの建物の中。今受付の人が驚いているところだ。
「なんで、そんなに王冠を...」
「だから言ったろ?俺を炊事能力だけでみると後悔するって。」
「この人!勇者の血を引いてるんだよ!」
「え?でもさっき...え!?」
彼女の言葉を聞いた瞬間。ただでさえ俺にたくさんの視線が集まっているっていうのに、更に視線を強く見るようになった。とうとうこれでバレてしまうのだろうか...
「自分が最強の勇者の血を引いている事を悟られたくないから、わざとスキルを隠してたんですね!憧れます!」
「ま、まあそんな感じだな。」
どうやら受付の人は間違った方で理解してくれたようだ。でもそんな都合の良い設定も出来るのか...俺はなんとか助かった。そしてみんなが注目している中、ある一人の男が言った。
「新しい勇者の誕生だな!お祝いに今日は俺がおごってやるぞ!」
それに便乗するかのように次々に他の人たちにも誘われた。
「俺の所に来い!おごってやるし、パーティーに入れてやるぞ!」
「あー、お前らずるいぞ!どうだ兄ちゃん。うちに入らないか?」
もう勘弁してくれよ。いつの間にか俺の取り合いになっていてどんどん取引も高値になっていく。俺は少し戸惑っていた。俺はこういうタイプの誘いは苦手だ。
でもその時初めて感じる気持ちがあった。俺は今、色々な人に必要とされている。しかも俺は勇者の血を引いている人と思われてるからいわば俺の代わりなんて居ないんだろう。
そして気付いた。俺はあの頃から成長していると。
「飲むことだけは付き合ってやろう。でも俺は誰ともパーティは組まない予定だから、分かってくれ!」
「...まあ、勇者様のご意向だからな。分かってやろう。」
「...そうだよな。よし!今夜は飲むぞぉ!」
俺自身お酒はあまり得意ではなかった。でも今日はおごってくれるらしいからお酒が得意でなくてもここは飲むしかないのだ。これが礼儀的なやつなのだろうから。
でも心配することはない。今の俺には「状態異常耐性V」がある。酔うことも状態異常の1つとみなしてくれたらしいから、いくら飲んでも全く酔わない。現実世界に持っていってもある意味無双できそうな能力だ。
◇
飲みすぎた...腹がはちきれそうになる。流石にこれはどうとも出来ないのかよ...
「お、いつの間にか『状態異常回復III』が付与されている。勝手に付与してくれる事もあるのか。まああんだけ飲んだから付くよな。」
みんなが酔って静かに寝静まってる中、俺とあの子だけは起きていた。俺は無双してたし、彼女はそもそも飲めない。景色を見ながらぼんやりしていると、いきなり彼女が話しかけてきた。
「あの、わ...私もその冒険について行ってもいいですか?もちろん邪魔はいたしませんから...」
そうか、あの前じゃ言いにくかったもんな。俺は今まであったことを全て話してその上で許可を貰うようにした。
「...て言う事なんだよ。それでもついていくつもりか?」
「はい、ついていきたいです...!あと私もその人たちに『ざまぁ』してみたいです...!」
「そうか、じゃあ明日から行動を開始するから、今日はもう寝るように!」
「はーい!」
今日俺はあいつらにざまぁする仲間が1人増えた。まあ共に冒険をするっていうことだ。あいつらにはしてやりたいことがたくさんあるからな。人数は何人居ても良い。明日からモンスターを討伐しつつあいつらの行方を追うことにしよう。
「俺も寝るかぁ...」
◇
「グアアアアアア」
「何だよこのドラゴン!いくら魔法をぶっ放してもビクともしないぜ!」
「こんな時に勇者がいれば少しはいいけど、もうあれは歴史上の人となってしまったし...ってあああ」
「こっちへ来るぞ!逃げろ!」
俺は夜眠れなかったからギルドで古くからある歴史書を読み漁っていた。どうやらドラゴンが1000年に一度どこからか来ていつも人や国を襲っていたらしい。シンプルに恐ろしい話だ。でも不思議な点が一つあって、それは数万年前の歴史書の現代語版を読んでいる時。ドラゴンは人類と仲良くしていたと小さく書いてあったのだ。
「どうしてくれるんだよ。今日はますます眠れないじゃないか。」
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