第5話 危険な場所とドラゴン

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第5話 危険な場所とドラゴン

「サトウさん!これ美味しいです!」 「そうだろ?テリー。」  俺はサトウ。彼女は『テリー』と言うらしい。後々聞いた情報であの国は「ナトゥーラ王国」という事が分かった。ものすごく今更な気もするが、仕方がないのだ。俺は知らなかったから。  俺らは今色々な目的を果たすための冒険をしている。今食べているのは「フェロックアービス」と言う名前の鳥で、凶暴だが中身はすごく美味しいことで有名な鳥だ。ギルドの依頼で捕まえたが、依頼の量を除いても余っていたので少し拝借して食べている。  あの時あのおじいさんに手違いか善意かわからないけど料理の能力を残しておいてもらったからありがたくバトルも料理も出来るオールラウンダーになった。 「これ食ったら行くぞ。あと今日は少しばかりお前にとって危険な場所だからはぐれないようにしておけよ。」 「うん!」 ◇  嫌な予感がする。そう思いながら俺は薄気味悪い森の中を歩いていた。ここはさっきの町から3km位離れた所にある森だ。依頼としては調査をしてくれれば良いらしい。その調査内容は「ドラゴンの痕跡を探せ〜1000年ぶりのドラゴン発生年、今度こそドラゴンを倒す〜」とか言うそれっぽいタイトルのプロジェクトの事前調査らしい。 「昨日読んだ本の内容がもうすぐ起きちまうって言うのかよ...転生するタイミングを見誤ったな。」  そう言っても事故は事故なのだから仕方がない。  なんでこんな最初の危なっかしい依頼を初心者にさせるのかと言うと、それはまさに「初心者だから」らしい。強い戦士や魔法使いはドラゴン討伐の時に駆り出され、それ以外のいわば「雑魚」パーティーは「初心者なのだから代わりはいくらでも居る」と言う理由で一番危ないような下見をさせているらしい。  でもそのドラゴンって言うのは1000年に一度しか現れないという非常にレアで強いドラゴンなのだ。だからこのひどく感じるような下見イベントも1000年前の文献をそのまま利用したからこうなっていると説明されている。それでもだ。これはひどすぎるんじゃないか?  と言うことで勇者の血を引いていると言われている俺が半ば強制的に先陣を切って行くことになってしまったのだ。 「まじでどうにかなってるわ...この世界。」 「そうですかね?モグモグ、昔からこんな感じらしいですよ?モグモグ...」 「お前は食うかしゃべるかどっちかにしろよ。」  色々考えながら、ブツブツ言いながら歩いていたら、突然唐突に恐ろしいものを見てしまった。  それは全長1.5mはあるであろう足跡だ。 「な...なんだよこれ...」 「ドラゴンですかね?もしかして今出てくるかも?なんて。」 「バカっ!そういう事を言ったら今までの俺の経験上本当にドラゴンが...」 「グオオオオオオ」 「あ...フラグ回収だ...」  何十メートルもあろう巨大な羽を持った真っ赤な生物...そう、言わずと知れたドラゴンだ。俺はその威厳に一瞬怖じついてしまった。でも待てよ。俺は勇者だ。もしかしたら倒せるかも知れない。今までの勇者たちもなんとか出来ていたのでは? 「テリー!勇者がソロでドラゴンを倒したっていう歴史はあったりするの?」 「ないです。」 「え?」 「だから...ないです。全く無いです。ドラゴンだけは誰も滅ぼせていないんですよ...立場が勇者であっても。」  どんだけこの世界でのドラゴンは強いんだよ。勇者とはせめて対等以下の実力であれよ。パワーバランスおかしすぎだろ...  そして俺は決断した。 「よし!逃げよう〜。」  俺はテリーの服をつかんでさっそうと森の中を逃げ回った。だって今までの勇者が倒せなかったのだから。でも、このドラゴンの移動速度がすごく速いんだ。 「うわぁぁぁぁ」  しまいには羽を伸ばして飛ぼうとしている。もう俺達は追いつかれて死んじゃうのかな。食われるならせめて噛まずに飲み込んでほしいな... 「...サトウさん!私は死にたくないです!早くぶっ倒してください!」  「ぶっ倒す」とか物騒な言葉が彼女から聞こえてきたのにはびっくりした。だけど、そうだな。勇者の血を引いているのは嘘だが、みんなからそう信じられているならここはどうなってでも一発やるしかないのではないか...?  俺は立ち止まった。ようやく逃げるのをやめ、冒険の目的を思い出した。そうだよ、俺はあいつらにいつか「ざまぁ」してやるんだった。俺はこんなところで死ぬわけにはいかないのだ。 「...巻き添え食っても知らねぇぞ。」  俺は立ち上がり、手のひらをドラゴンの居る方へと向けた。俺は空中を指でなぞり魔法陣のような図形を描いた。  そして俺は中二病だった頃をひたすらに思い出して、あの頃の俺になりきって詠唱をした。あの頃脳内で想像していた俺史上最強の魔法だぞ!俺に出来ないはずはない。と何度も言い聞かせながら。 「闇をも飲み込む漆黒の|地獄(インフェルノ)よ!今そのドラゴンに|処罰(パニッシュメント)をくだせ!...ハアァァァ!」  自分で言っているのに共感性羞恥心になりそうだ。昔の自分、痛すぎるだろ...!  あと技名だけがどうしても思いつかなかったのでそこは勢いで押した。次の瞬間、ドラゴンを囲むように空中に描いた魔法陣がいくつも複製され動き出した。そして、本当に絵の具の黒より黒いような漆黒が発射された。 「グアアアアアア...」  攻撃を受けた後たちまちドラゴンはゆっくりと消えかかっていく。上から浄化されていくように。僕はただそれを眺めていた。テリーはその様子を見てずっと立ち尽くしていた。 「...」  でも俺は一つ肝心な事に気づく。 「...あ!待って!証拠をとっておかないとぉ!ってあああ。」  思ったときには遅かった。もうほぼすべて消えてしまっているのだから。せめて証拠さえあれば報告できたかも知れないのに...! 「サトウ、やっぱりやれば出来るじゃん!君は間違いなく歴史に名を連ねる...!すごいよ!そして私はそれを見届けた1人になれたんだ...!」 「せっかくの所、悪いが...俺が倒したっていう証拠が、消えていってしまった...」 「そんな事ないよ!サトウ、上を見てみてよ。」  そう言われて上を見たら、何やらボールのような物が俺に向かってゆっくり落ちてくるではないか。僕はすかさずそれを拾い上げた。 「これは...」 「これは|核(コア)です!これはさっきのような強い生物を倒したときにドロップする物です。でも、この柄は何でしょう...?見たことがないです...まあ、あのドラゴンの物でしょうから見たことがないのも当然でしょうけど...でも本当にすごい!」  このコアと呼ばれる丸い石のようなものは、生命をかたどっている物質か何かだろうか...?すごく黒光りしていて綺麗だ。黒一色のはずなのに模様があるように見えるのが不思議で仕方がない。見とれていたいところだが、テリーに言われたので仕方なくギルドへ戻った。  帰り道、ずっとテリーは俺の事をすごいと言って褒めてくれた。褒められたのも初めてかも知れないな。と思いながら俺は真剣に褒められていた。 ◇  ここはギルド。今日は大ニュースを持ち込むことが出来た。俺は受付の人にコアを見せた。半分見せつけてたかも知れないが。 「はい、例のドラゴンは俺が倒しました。これ証拠。」 「え?」  ギルドの受付が少々静かになったが、すぐに後ろに並んでいたおじいさんが見て言ってくれた。 「確かにこりゃあ見たことがねえ。わしは巷で有名なコア鑑定士の者だが、こんなに質が良く綺麗なコアを見たことがねぇな...」  この言葉と共にギルド中が騒然とした。本当にドラゴンを倒したんだなとか、私に売ってくれとか、流石勇者の血を持っているだとか色々と言っていたが俺がこのレアアイテムでやってみたい事はただ1つだけ。 「これで新しい剣を作りたいのですが。」  周りの人は驚きで唖然としていた。 「あ...あと別に受けていた依頼の鳥、持ってきました...」
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