第9話 魔王の誕生と善

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第9話 魔王の誕生と善

「あれが俺達の城か!」 「とても大きいですね!」  目の前に広がっているのは広大な土地をふんだんに使った、まさに「魔王城」である。俺らはその規模にびっくりしていた。東京ドーム何個分だろうか... 「サトウ様、こちらへどうぞ。」  幹部についていくと、中に入って次々と部屋に案内されていく。その部屋はすべて綺麗に掃除されていた。流石俺の部下といった所だな。 「...こちらが魔王の部屋でございます。そして隣がテリー様のお部屋になっております。これで部屋のご案内は以上です。」  案内されただけで疲れている。でも肉体的な疲れは全く無い。よってこれはストレスによる物だろうか?いきなり魔王城に行って案内されたからな。そりゃ疲れるだろうな。 「なあ、幹部たちに自己紹介をさせてくれないか?」 「そうですね。自己紹介をしないと...」  そしたら一瞬で幹部が俺の前の方に来た。そして自己紹介を始めた。  幹部の中心人物。さっきまで案内したり俺を呼んだりしてくれたのが「ホール」、そして残りの6人は「ハリス」、「エイミー」、「ブライアン」、「イリーナ」、「テオ」、「サヴェリオ」と言うらしい。彼らに関しては覚えるのが少々面倒くさいから後々からでも良いか... 「私達はそれぞれに固有能力を持っています。詳細は後々聞いてみてください。」 「ああ、ありがとう。」  そしてホールを除いた6人はそれぞれの持ち場に着いた。その後、ホールから魔王軍勢力について話を聞いた。魔王軍、俺の部下となる人は5万人いるらしい。しかも全てが強力な個体であり、魔王にしっかりとした忠誠心があるらしい。 「それは素晴らしいな。」 「サトウ、私お腹が空いた...」  そうだ、そういえばテリーの心配をしていなかった。しょうがない、早速幹部に指示しておくか。 「...だってよホール。時間も遅いし、何か食べさせてやってくれ。」 「承知しました。サトウ様の命令とあらば。」 「あと、俺は寝るから。テリーの事よろしくねー。」 「はい。」  俺はすっかり眠っていた。今日は色々とドタバタしていたけれど、明日からはギルドに通って依頼を受けるようにしよう。ずっと怠けてても良いことがないからな。俺が唯一身をもって知っている事である。 ◇  朝になった。魔王城からの朝日もなかなか綺麗だった。俺は起きて朝食を食べている。うん、魔王ってのも意外と悪くないかも知れないな。昼間はギルドでお金を少し稼いで、夜はこっちに帰ってくる。とても良いサイクルじゃないか。 「このスープ...うまい。どういう物を入れているんだろうか...?」  朝食を食べて支度をした俺はいつものギルドへ行った。今日は高配当で良い依頼がなかなかない。 「今日の依頼は良いものがないなぁ。もうちょっとよく見てみるか...」 「...サトウさん、ちょっとこっち来て。」  俺はギルドの受付の人に呼ばれて、ギルドのバックヤードのような所に来た。 「これ、サトウさんのためにとっておいてありますよ。どうします?結構やっかいらしい奴ですけど、大丈夫ですか?」  これ結構高配当で良いな。じゃあこれを受けてみるか。 「大丈夫。じゃあ、これにするよ。ありがとう。」  そう言って依頼を受け、目的地に向け足を運んだ。  俺は道を歩いていると、ありとあらゆる人に良い挨拶をされる。どうやら周りの人たちは既に俺を勇者だと認めてくれているらしい。なので俺は「実質的な勇者」って事になる。さらに魔王でもあるらしいし... 「勇者兼魔王か...異色の組み合わせだな...まあ強いってことでアリにしておこう。」  そしてしばらく歩いていたらその危険なモンスターが居るという森に着いた。多分ちょっと前にこの森に入ればビビり散らかしていただろうな。 「さて、今日はどんなのが居るのかな?」  今日は剣で討伐してみようと思っている。せっかく勇者固有の「剣技X」のスキルを持っているのだから、活用しないとな。 「...おお!キングスライムちゃんか!かわいいなー。」  キングスライムは体当たり攻撃をしたり毒を吐いたりしているが、俺には一切効かない。勇者と魔王のスキルを同時保有しているから色々と大丈夫なのだ。  そしていつの日からか、この様に俺になつくようになっていたのだ。最近は体を触らせてもらっているが、すごくぷよぷよしていてすごくかわいい。  だが時々他のパーティーに引かれてしまう事もある。 「あ...あの、それってキングスライムですよね?大丈夫ですか?」 「ええ、全然大丈夫です!お構いなく!」  いつもこんな会話を繰り返している気がする。  まあそれはどっちでも良いとして...依頼の被害報告に「畑の野菜や家畜が食い荒らされている」と書いてあった。俺にとってはどっちでも良いけど、俺の優しい感情が許さないという気持ちでやっている。 「まあレストランで美味しいのが食べられなくなるのはごめんだからな...」  しばらくして森の真ん中あたりに来ると、やっと例のモンスターらしきものが出てきた。 「やっと出てきてくれたか...確かに人間の食うものが好きそうな感じがするぜ。」  確かに凶暴そうな見た目をしている。人を何人か食べていてもおかしくないような。しかも体は大きいし移動速度が普通のとは桁違いに速い。そうしたらどこからか魔法使いが全力で逃げているのが見えた。 「大丈夫ですかー!早く逃げてくださーい!」 「心配いらないよ!...今日は『新技』を試してみるんだ!」 「ええ...それはちょっと...気になっちゃうじゃないですかー!」  そうしたらその魔法使いは少しずつ俺の後ろに回り込んだ。彼が完全に俺の後ろに来た時俺は手を剣にかざして、力を込めた。 「剣よ!あのモンスターに大地の力を見せびらかしてやれ!」  そして勢い良く剣を地面に突き刺した。そうしたらモンスターに向かって大きな地割れが起こり、そこから固くなった地面が剣のように突き出てモンスターを攻撃した。 「あ...あ......」 「やった!成功だ!倒したぞ!どうだ、よく見ていたか?あの技を。参考にしとけよ、お前は誰か知らないけど!」 「...すごいです!地面を自在に操るなんて上級魔法を使っても難しいっていうのに!しかしあなたは...?」  上級魔法でも難しいんだ。それは初耳だなぁ... 「俺は勇者兼魔王をしてる人だ。お見知りおきを。」  「魔王」と口にした瞬間その魔法使いが怖じ気着いていた。まあそれもそうか。でも俺は人間に今の魔王は安心安全な存在だと認識させたい。今の魔王は人間には手を付けないってことを...  まずはこの魔法使いから安心させてあげないとな。俺はモンスターのコアをえぐり取り、彼にあげた。 「はい、じゃあさっきのモンスターのコアを君にあげるよ。交換すれば良いお金になるだろう。さっきは見てくれてありがとな、じゃ。」 「...!」  俺は森を後にしていった。ハハハ、今日は我ながら良いことをしたな。後はこれで少しの人々にでも魔王に対するいいイメージが出来てくれれば良いんだけど...  でもさっきのコアを渡したという善の行動はどっちの手柄にすれば良いのだろうか?勇者の良い行動としても言えるし、魔王の優しさによるものでも良いな... 「これは難しい問題だ...」  まあでもこの場合は「俺」の手柄でいいか。俺は森を抜けて、まっすぐ魔王城へと帰っていった。
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