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夏の日
「急がなくては、締め切きりに間に合わない」
と慌てた様子で自分の机の上を片付けると、
自分の鞄を手にする彼女。
彼女の名前は、山辺里子
小さな出版会社の編集部に勤務する彼女は
真面目な仕事ぶりから、数名の作家を担当する。
「行ってきます」と大声で先輩たちに挨拶を
すると、勢いよく部屋を飛び出す里子。
彼女が廊下を小走りに進むとギシギシと
床の音が鳴り響く。
木造二階建ての建物が彼女が
務める出版会社。
階段を降りて正面玄関より外に出ると、
ミーン・ミーンと鳴り響く蝉の声が
彼女を出迎える。
辺り一面に鳴り響く蝉の鳴き声を聞きながら、
里子は瞼の上に手を翳し空を見上げると、
真っ青な空から太陽がギラギラと
容赦なく里子の身体を照りつける。
「暑い……」一言呟くと里子は足早に
バス停に向かって走って行った。
時は昭和五十年代、
パソコンも携帯電話もない時代。
固定電話と万年筆、
そして、ナイフで削られた鉛筆。
原稿用紙に綴られる言葉の数々。
その夏……
里子は人生を変える出会いをした。
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