嬉しい知らせ

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嬉しい知らせ

里子が、石上徹の編集担当になり 半年が過ぎようとしていた。 書斎の窓から、五月の爽やかな風が 吹き込むとひらひらと白いカーテンがなびく。 「先生、新しい原稿できましたか?」  と深緑色のソファーに座り声をかける  里子。 「はい、今書いてます。  えっと……あと少しです」 と返事をする石上。 「先生、大丈夫ですか? 締め切り」  机に向かう石上の背中を見ながら  里子が言った。 「う~んと え~と 多分、間に合うかな?」 「多分?」と里子がソファーから立ち上がる。 「山辺さん、怖いよ……」と呟く石上。 「先生、雑誌のコラムの連載、  何が何でも、書き上げてください!」  口を尖らせ頬を膨らませる里子。 里子の膨れた頬を見ながら石上 がクスッと笑う。 それを見た里子は「先生!笑わないで書く!」と石上を叱咤激励する。 石上と里子は、『創作』に向けて長い時間を 伴に過ごすうちに、 いつしか、作家と編集者として 互いを信頼し、尊敬し合うようになっていた。 そんな時、彼の元に一本の知らせが入る。 「え?俺がですか?」電話口で唖然とする石上 石上の様子を見た里子は彼の横に歩み寄る。 「はい はい わかりました。  ありがとうございました」  電話を切り大きな溜息をつくと  項垂れる石上。 「先生? どうしたんですか?」 里子が心配そうに石上の顔を覗き込んだ。 「……した 僕の小説が……した」と呟く石上 「小説?『朝露の君』のことですか?」 「うん。『朝露の君』が、  文学新人賞を受賞したって  今、上戸さんから知らせがきた」 「『文学新人賞』受賞って……先生、凄い……  先生! 凄いですよ。やりましたね……」  と驚く里子。 「山辺さん、僕、やったよ! やったよ!」 と満面の笑みを浮かべる石上。 「先生、おめでとうございます」  声を弾ませる里子。 「ありがとう、これも、山辺さんのお陰だよ」  二人は、抱き合って喜んだ。 異例の速さで『新人賞を受賞した』石上。 こうして、小説『朝露の君』と 『作家 石上徹』 の名前は世間の目に触れることになった。
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