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なぜなんだろう。
高校に入学して思ったのは、どういう訳だか誰からも『ブス』と言われなくなった事だ。
私の人生は『ブス』と言う言葉と共にあったのに、唐突に言われなくなった。
そして不思議な事に、意地悪をして来る男の子がいなくなった。
いや、むしろ気持ち悪いくらい親切になって、何かの天変地異が起きているようだった。
なぜなんだろう。
なぜ急に男の子たちが紳士になって優しくなったんだろう。
引っ越しもしていない。
中学を卒業してから、自転車通学のできる近所の高校に入った。
中学から顔見知りのメンバーも含まれている。
なのに、私に意地悪をしてくる男子がいなくなった。
一人もいない。
私は消しゴムを落とした。
隣りの席の男の子が笑顔で拾ってくれる。
当たり前の事?
いいや違う。
わざわざ拾ってくれるような男子は今までにいなかった。
『ブス』の消しゴムを拾う男子はいない。
何が起きたのだろう?
私の顔が変わったのでもない。
身長が少し高くなったくらいで、バストも膨らまなかった。
それなのに、私を取り巻く環境はガラリと変わった。
何だか女子の態度は変わらないのに、男子だけが変わったみたい?
目が合うと、はにかんで笑う男子生徒たち。
チラチラとこちらを盗み見る妙な視線。
怖い!!
私はいわゆる美人でもなくて、可愛いくもない地味で冴えない女子。
なのに、なぜだか妙な視線を感じる。
その視線が痛い。
内臓を突き抜ける宇宙線が通過していくような感じだ。
偶然私の周りの席は男子生徒ばかりになって、彼らに囲まれていた。
そして、小声で「何かいい匂いがする」だとか聞こえ出して、コソコソと会話するのが聞こえてきた。
「これ、女の匂いってやつだな」
「甘い匂い」
「いいな」
「俺、この匂い苦手」
「嘘、俺好き」
あの、全部聞こえてます。
そして猛烈に怖いです。
こういう事をクラスの女子たちが、めいめい言われているのかはわからない。
そして品定めをする視線に日々晒されているのかどうかもわからない。
とにかく毎日が緊張を強いられる色のある目で見られるようになって、私はあの言葉を思い出した。
「女の子は皆んな可愛いよ」
あれって、こういう意味だったのではないだろうか?
あの男の子はませていた。
誰よりも早く早熟して、女の子が皆んな可愛いく見えるお年頃になっていたのではないだろうか?
でも、彼はデカチビコンビのチビの方。
体の大きい男の子の方が言葉の意味がわからないでいるようだった。
私は可愛くなったのではない。
彼らから見て、可愛く見えるようになったのだった。
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