好きって事はキラキラしてる

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0e42cc04-efb1-48b1-a65b-1b041e23ad53 「相変わらず可愛いね」 自転車置き場でまた誰かに言われた。 ナンパか、と思って見てみると、そこには何となくどこかで見た事のある気配の男子生徒が立っていた。 背が高く、低い声の彼は、前髪が長く目に掛かっている。 その前髪邪魔じゃないのか、と尋ねたくなるのを抑えて私は彼を見つめた。 ニコニコと笑っている彼が言う。 「俺の事、覚えてる?」 「えっ」 いや、全く見た事もない。 聞いた事もない声。 「誰?」 「俺だよ俺」 あ、これ。 オレオレ詐欺の名セリフじゃない? 古くて懐かしいんだけど。 「中学一緒だったっしょ」 「いや〜、そうだっけ」 「隣のクラスでさぁ、朝礼の時よく近くに並んでたじゃん」 「え?」 「可愛いいから、俺は忘れてないよ」 「同じ学校だったの?」 「知らなかったの?俺は入学式の時からわかってたけどな」 「だって、背も高くなってるし顔だってなんか違うし、声も…」 「思い出してくれた?」 「うん」 彼は私の『ブス』全盛期を救い出してくれた男の子、名前も知らない隣りのクラスの男の子だった。 「今も可愛いね。いやむしろ、前よりもメッチャ可愛いくなってる」 それは違う。 私は可愛くなんかなっていない。 彼が私を前よりも可愛く感じるようになったんだ。 「可愛い」 「あのさ、可愛いいって言われると、なんだかんだけど」 「あ、ごめん。なんか、可愛いもの見るとつい言っちゃうんだ。可愛いなぁって」 「あの、ゆるキャラとか好きなタイプなの?」 「ゆるキャラ?うん、結構好きかな」 「じゃ、ゆるキャラみたいなもんか」 私はなんとなく、それで納得した。 彼には私がゆるキャラみたいに見えているんだ、きっと。 ディズニーランドでミッキーに出会うと、つい「可愛い〜」って言ってしまいたくなるような。 そんな感じ。 「いや、マジで俺、君の事可愛いって思ってるんだけど」 この言葉の意味は何? 彼のスタンスは変わっていない。 彼にとって世界は可愛いいもので溢れていて、幸せに満ちる世界なのかもしれない。 「君の顔、好き」 はい、顔ね。 彼にとっては顔が全てなのだろうか。 その顔の事を全否定されて来た過去を嘆きながら、それを肯定してくる相手を批判的に見てしまう卑屈な私。 「可愛いよ」 私は彼の事が好きだったくせに、それを拒みたくなる訳のわからない力を感じた。 自己肯定感の低さが原因のカエル化現象なのかもしれないし、自己防衛本能なのかもしれない。 だけど、彼を避けたくなった第一の理由は、彼が「君の顔が好き」と言ったからだった。 顔! 魔法の鏡も顔を映してそれを評価する。 顔! なんだか最近知らない人にまで「可愛いい」と言われ始めた、私の顔。 私は可愛くなんかない。 今は私を『ブス』だと罵る相手もいないのに、私を『ブス』だと思っているのは、私自身。 この世で一番自分をそう思っているのは、私本人なのよ!
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